【お薦め本】『「科学知」と「人間知」を結びつけるために わたしの最終講義』(池内 了著 青土社)

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▼最近いろんな事情が重なり、人の講演(講義)を聞く機会が少なくなってきている。
 とても残念である。
 元々不勉強な私はそのような講演(講義)との出会いをきっかけにその方面の学びをはじめるということが多かっただけに、「エネルギー源」をたたれたようで哀しい。
 今の時代だから、YouTubeなどを利用していくらかは補完することもできるかもしれないが、やっぱり生がいい!!
講演者の息づかい、表情、間合い等々を含めた生のお話は、聴かせてもらったものにとっては貴重な「財産」となる。

▼いつかはぜひ生のお話を聴かせてもらいたいと思っている人のひとりに池内了さんがおられた。著書を通じて多くを学ばせてもらってきた。とりわけ「寺田寅彦」についての著作からは実に多くを教えてもらい、勝手にオンライン「寅の日」への「案内人」のように思ってきた。
 その池内氏が副題に「わたしの最終講義」とした本が出た!!
 それが、今回の【お薦め本】だ。

◆【お薦め本】『「科学知」と「人間知」を結びつけるために わたしの最終講義』(池内 了著 青土社 2025.5.28)

 さっそく手に入れ読んでみた。実に面白かった!!
例によって3つのお薦めポイントをあげておく。

(1)多種多彩なる九つの講演・講義(お話)を自由自在に楽しめる!! 
(2)著者の主文脈=「新しい博物学」が豊かに読めてくる!!
(3)読者自身の「これから」に示唆を受ける!!

▼ではポイントのひとつずつを少しだけくわしく語っておく。
(1)多種多彩なる九つの講演・講義(お話)を自由自在に楽しめる!!  
今回は、いつもとちょっとちがった本の読み方をした。
 あくまで講演・講義を想定して「一日一話」を原則として読んでいった。
 たとえ面白そうに思えても、この原則をはずさなかった!!
 ダカラ アリガタイことに 
 九日も池内了氏の「講演会」を楽しめたのだ!!
 この「講演会」はラッキーだった。メモを取る必要もなかった。だってもうそこに「書かれて」いるのだから。
 理解力の落ちてきている私は、「音読」を原則として声に出しながら読み進めた。
 頭の中で整理できにくくなると、スローになったりストップをかけたりした。
 たったひとりの「聴講者」である私の自由自在であつた。
 九つの「講演会」のテーマは、多種多彩であった。
 それは、そのお話が誰を「対象者」(「聴衆」)としていたかを物語るものだった。
 初出は、いつどんな場での講演・講義かはあげてある。
 それにしても驚いてしまう。
 著者の「守備範囲」の広さに!!
 こちらも変化自在に、そのときの「受講者」になって楽しんでしまおう。

次にいこう。
(2)著者の主文脈=「新しい博物学」が豊かに読めてくる!!
 九つの話はバラバラのようにも見えた。
 しかし、底部でしっかりツナガッテイタ!!
 それは、まるで連句のように(「連句」とは何であるかをくわしくは知らないくせに)別個に見えて、ツナガリ全体で1個の「作品」に見えてくる。
 全体の底部に流れる著者の主文脈(提言)、それは
 「新しい博物学」!!
 だと思っていた。ここは著者のコトバを借りよう。

 「新しい博物学」とは、単純に言えば、文系の知恵としてさまざまに展開されてきた諸々の「人間知」と、理系の知識として発見されてきた自然界の構造や運動についての「科学知」とを対等に盛り込んだ物語を楽しむことを目的としています。つまり、文系知と理系知を結び付けた物語を創る試みのことです。(同書P9より)

 その試みは、みごとに成功していました!!
 ここに豊かに語られた九つの「新しい博物学」物語があります。

▼3つ目のポイントにいきます。
(3)読者自身の「これから」に示唆を受ける!!
 3つ目はかなり個人的なことです。
 私にはとりわけ最後の2つの話が興味深かったです。

●第8話 科学者の「歴史の見方」とは?――播磨国の歴史から私の歴史散歩を試みる
●第9話 三〇〇年前の天の河は特定できるのか?――芭蕉と越後と天球の回転

第8話の「播磨国」とは私の「ふるさと」のことです。
 なんとこの講演は我が町でおこなわれたものなんです。残念ながらせっかくのこのチャンスを逃してしまいました。しかし、アリガタイことに、そのときの「記録」がここにあるというわけです。
 「科学と歴史を考える」では、具体的な提言もされています。
 それは、私自身の「これから」についても示唆的で、とても参考になりました。
 私にもできることから少しずつ少しずつはじめたいと思います。
 第9話についても同様です。
 私にとってのあらたな「新しい博物学」の楽しみ方を教えてもらっているようだった。
まだまだ勉強ですね。
 
 “最終講義”となっていますが、ご本人も“挑戦”すると言われいますので、どこかで 生でお話を聴く機会があることを楽しみにしていたいと思います。

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【お薦め本】『動的平衡は利他に通じる』(福岡伸一著 朝日新書)

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▼ゆっくりで、あんまりたくさんの本を読んでこなかった私にもシロウトなりの独特の読書術があった。
 “イモズル式読書術”!! デアル。
 不勉強で多くの分野での手がかりとなる“つる=キーワード”のことをよく知らなかった。そんななかひょんなことから出会ったのが
 「動的平衡」!!
 「動的平衡」「福岡伸一」をイモズルにして、ひっぱり出せる本はかたっぱしから読もうとしていた時期があった。
 なかみがどこまでわかっていたかは別にして、ともかく嵌まっていた。
 面白いと思っていた!!

▼久しぶりに「動的平衡」「福岡伸一」の本に出会った。
 それが今回の【お薦め本】である。

◆【お薦め本】『動的平衡は利他に通じる』(福岡伸一著 朝日新書 2025.3.30)

やっぱり面白かった!!
 感動がうすれぬうちに、書き留めておきたかった。
 例によってお薦めポイントは3つだ。

(1)“動的平衡”の「今」を読むことができる!!
(2)守備範囲の広い名エッセイを読むことができる!!
(3)自分でもエッセイに挑戦してみたくなる!!  

▼ではさっそく少しだけくわしくみていこう。
(1)“動的平衡”の「今」を読むことができる!!
 この本は2015.12.3~2020.3.19に「朝日新聞」で連載された「福岡伸一の動的平衡」を改題し書籍化したものを、さらに適宜加筆修正した新書版です。
私の嵌まってしまった“動的平衡”を著者のコトバを借りながら今一度その文脈を追ってみよう。

 動的平衡は、私の生命論のキーワードである。生命とは何か?この問いに対して、細胞からなるもの、呼吸しているもの、代謝しているもの、増殖するもの……というふうな形で答えを得ようとしてすると、いつまでたっても生命の周りを回るだけで、生命の本質に到達することができない。それは生命の特性を、生命の外部から列記しているだけだからだ。生命の本質に到達するためには、生命の外部からでなく、生命の内部から生命のあり方を捉える必要がある。そう考えて思考を深めていった結果、行き着いたのが動的平衡である。(同書 P3より)

 続けよう。
ところが生命だけは、この方則にあらがっている。なんとか“坂”を登り返そうとしている。無秩序になることに抵抗して秩序を作り出し、形のないところに形を作ろうとして、部分的に濃度の高い場所を生み出し、熱を産生する。酸化に抵抗して還元を行う。つまり宇宙の大原則であるエントロピー増大の法則に抵抗を試みている。崩れることがわかっているのに石を積むことを諦めないギリシャ神話の英雄シーシュポスのように、あてどない営みにあえて挑戦している。これが生命の“努力”なのである。(同書 P5より)

そして、もっとも端的に“動的平衡”を語るものとして鴨長明「方丈記」の冒頭をくりかえしとりあげていた。
ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。よどみに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて久しくとどまりたるためしなし。

 これは彼の当時の世情に対する諦観であるが、これほど見事に動的平衡の生命論を歌い上げた一文もない。生命はまさに流れに浮かぶうたかたである。特に優れているところは、かつ消えかつ結びて、というところ。分解を合成に先んじて詠んでいることである。分解を「先回り」することによって流れにあらがうこと、まさに動的平衡そのものである。
(同書P7より)


 ここまでだけでは、“動的平衡”の「今」を語ることになっていなかった。
 次なる一文が必要であった。
 生命の基本原理は、基本原理は、絶えず他者に何かを手渡し続けること、ストックではなくフローをし続けることによって支えられている。他者のエントロピー排出を、もういちど秩序あるものに作り返すことによって成り立っている。これは利他性、あるいは相補性といってよい互恵的な関係性である。つまり動的平衡は利他性によって支えられている。(同書P9より)
 
これらの主文脈が、長年の定期連載のなかでみごとに貫かれているのである。
 
(2)守備範囲の広い名エッセイを読むことができる!!
 私は福岡伸一の文章が大好きである。
 読んでいるとあれよあれよと言う間に、まったく知らぬ世界に連れて行ってくれる。
 それは、オンライン「寅の日」で読み続けている科学者・寺田寅彦の随筆に通ずるものがあると勝手に思っていた。
 著者自身は、この名エッセイ群についてこう語っていた。
 ひとつひとつはごく短いエッセイである。短いがゆえに、それは論考というよりもちょっとした感慨であり、叙述というよりもスケッチに近い。あるいは、どちらかいえば詩や短歌に近いものかもかもしれない(詩や短歌ほど整った言葉でもないけれど)。そんな言の葉が、読者に、何らかの気づきや共感を、わずかでももたらすことができれば幸いである。時系列に並べてあるが、どこから読んでいただいてもかまわない。(同書P18より)

 そう元々が新聞のコラムだけに字数制限のなかで書かれたものなんだろう。
 それがまたこちらしてはアリガタイ!!
 新書版ではちょうど一ページ一エッセイだ。
 タイトルがつけてあるので、気になるページがあればそこから読めばいい。
 携帯しておいて、「すきま時間」に楽しむことも可能だ!!
 どのページがあなたの知らないどんな世界に連れて行ってくれるかな!?
 
▼3つ目のお薦めポイントだ。
(3)自分でもエッセイに挑戦してみたくなる!!  
 実はこれは書こうか躊躇した。
 これはお薦めポイントと言うより、私自身の独白(「ひとり言」)だ!!
 著者の名エッセイを読むうちに不遜なる思いが生まれてきた。

 私も自分でエッセイを書いてみたい!!

 ポンコツの「たわごと」だ。それはわかっている、しかし…
 著者は、ときどきうまい「文書作成術」を指南してくれていた。
 例えば

 「文章がとてもお上手ですね」と言われることがある。自分の文章がうまいのかそうでないのかは自分ではよくわからない。でも、できるだけ伝わるよう、理解されやすいように心がけていることがひとつある。
 なるべく「とはもの」を使わないようにする、ということ。DNAとは?この言い回しで始まる説明が、“とは”もの。たぶんマスコミの業界用語だ。「とはもの」で始めた時、語り手は、そのことを熟知した者として、不可避的に上から目線となり、啓蒙的な口調になる。(同書P40より)

 もうひとつだけあげてみよう。
 昔、天声人語を読めば受験勉強になる、と言われた時代があった。文章力向上をうたって、天声人語を書き写すノートも売られている。本紙の看板コラムサマと張り合うつもりなぞ大それた気持ちはみじんもないが、いまや私も小なりとは言え、入試問題頻出著者。今年も北大や法政大などで拙文が出題された。思うに、文章力・国語力のエッセンスとは、文脈のリズムに沿って、適切な言葉を選び取るセンスではないだろうか。つまり言葉を探し、言葉を削ること。短歌や俳句を作ることに似ているかもしれない。(同書P185より)

 である。
 これ以上は蛇足である!!
 実はこの名エッセイ群を読みながら、紹介したいこと他にもいっぱいメモしていたが、書けば書くほど蛇足の上書きのような気がしてきた。
 読者になるあなたが、自分風にカスタマイズして読めばいい!!
 きっとこの エッセイ 最高!!
 と言えるものをみつけることができるハズ!!

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【お薦め本】『大人のための 地学の教室』(鎌田浩毅著 ダイヤモンド社)

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▼私は今、「動く大地」を科学する をつづけていた。
なかでも<ふるさと巡検>に嵌まっている!!
 毎日見慣れてきたふるさとの山川の景を歩いて巡るのである。やりはじめたらとても面白くてやめられない。そして思うのだった。
 「なんでこんな面白いことを、もっとはやくからやらなかったのだろう!?」と。
 今さら後悔してもしかたない。
 それより今から可能な範囲で、存分に楽しみたい!!
 こんなときちょっと困ったことがあるだ。
 知らないのだ!!もっともベースになる基礎・基本の知識を。
 もっと勉強しておくんだった。とこれまた後悔するのだったが…。
 
▼こんなとき、ちょうどいい本に出会った!!
 それが今回の【お薦め本】である。

◆【お薦め本】『大人のための 地学の教室』(鎌田浩毅著 ダイヤモンド社 2025.2.17)


 先にいつものように3つの【お薦めポイント】をあげておく。

(1)地学の基礎・基本が面白くわかりやすく学べる!!
(2)地球科学の「あるある質問」の答えがここにある!!
(3)防災・減災のための大人の必読「教科書」!!

▼ではひとつずついきましょう。
(1)地学の基礎・基本が面白くわかりやすく学べる!!
 ちょっと自分の不勉強を棚にあげて、愚痴とも言い訳ともとらえられそうなことをあげておきます。
 ・「地学」ちゃんと勉強しようとしてもなかなか難しいんです。
 ・「地学」の本って、なんですぐ自分たちだけわかるあの「専門用語」使うの!?
 ・<時間のスケール>がなかなかわからないんだ、と言っているのに!!
 ・あんな面白そうな「地質図」をなんでみんなのものにしないの!?
 ・勝手に「地層」「岩石」に命名しているの!?誰もがわかりやすい名に!!
等など。
「それはみんなおまえが不勉強だからだ!!」と一喝されてしまいそうだが。
 しかし、著者(鎌田先生)はそうは言っていなかった。
「おわりに」のなかで、こう言ってくれていた。
 

もう一つ、地学は「おもしろくて、ためになる」科目でもあります。このフレーズは戦前に雑誌『キング』『少年倶楽部』を出版した講談社がつくったものです。私もその方針で本書を執筆し、文系読者が苦手な数式や化学式をほとんど用いませんでした。
 実は世の中にはためになっても面白く読めない理系本が多いですが、そもそも学校に憂鬱な思い出しかないのは、「たしかにためにはなるかもしれないが、全然面白くなかった」からではないでしょうか。(同書p422より)

 アリガタイ!!
 まるで授業を受けているように、面白くわかりやすい語り口調で「地学」の基礎・基本を教えてくれます。
 知っているつもりのことも、いちばん根っこのとこから教えてもらうとはじめて「わかった!!」となります。
 
(2)地球科学の「あるある質問」の答えがここにある!!
 各章には、よく出てく「あるある質問」とその答えがあります。
 うまいですね!!
 最初に「とてもいい質問ですね。」と質問をほめるんですね。
 そして、「質問」を豊かにふくらませておいて「実は、それは…」とわかりやす答えてくれているんですね。
 もっと感心してしまうのは答えのわかっていないものについてははっきりと
 「一応そう考えられているけど正確には答えられないですね。」
 「よくわかりません。」
 「基本的には答えはわかりません」
 「これもいい質問で、個別の話と全体の話があるんですね。」
 「……」等など
 質問者を喜ばせ、納得させる神対応デス!!
 つい「私も質問があります!!」となってしまいそうですね。

▼最後の【お薦めポイント】にいきましょう。
(3)防災・減災のための大人の必読「教科書」!!
 実はこの本のいちばんのウリはここかも知れませんね。
 著者は「はじめに」でこう言い切っていました。

 こうした自然が引き起こす巨大災害を、人が完全に防ぐことはほとんど不可能です。よって、科学的にもまた予算的にも、災害をできるかぎり減らすこと、すなわち「減災」しかできないのです。
 では千年ぶりの「大地変動の時代」に遭遇した日本人は、効果的な「減災」を実現するためになにをすればよいでしょうか。結論から言えば、「地学の知識」が身を守ると私は考えます。
 「減災」を支えるキーフレーズは、「人や組織に頼らず自分ができることをいまはじめる」です。すなわち、誰かの指示を待って行動する受身の姿勢でなく、自らが動ける能動的な体勢を今のうちから準備することです。そのため本書で述べる最新の地学の知識習得から取りかかっていただきたいと思います。(同書P12より)
 
本のサブタイトルは 
「「地震」と「火山」の国に暮らすあなたに贈る」
「大人のための 地学の教室」
となっています。
この国の大地に暮らしているのは、「大人」だけではありません。
「子ども」たちも同様です。
とても読みやすいですので、「子ども」たちも含めて「すべての人に」ぜひお薦めです。
「大地変動」の「からくり」を知れば、正しく怖がることができます。
防災・減災対策に真実味、具体性ができてきます。

私の<ふるさと巡検>もより楽しいものになると期待しています。

【オマケ】にどうしても付け加えておきたいことがあります。
最初の愚痴・不満のひとつにあげた「地質図」についてですが、きっちりそれにふれた部分がありました。それもこの本の【お薦めポイント】のひとつです。
※ 「地質図」にふれた部分には。

 地質図とは、地表の岩石や土を表現した色刷りの図面のことです。すなわち、地上に露出した岩石がいつの時代のもので、どういう順番で積もって地層となったのか、といった事実をカラーで表現した図面です。一目で何十万年、何億年という時を見詰めることができる鮮やかな地図です。なお、「産業技術総合研究所の地質図」で検索すると最新の地質図がダウンロードできます。(同書P424より)

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【お薦め本】『すばらしい空の見つけかた』(武田康男[写真・文] 草思社)

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▼「雲見」と【宇宙見物】は私の究極の道楽である!!
 そんな大げさに言う話でもない。
 ただただ毎日空を見上げて、そして可能な限りヘタな写真でも撮りつづけているにすぎない。
 その写真をSNSで発信したりして楽しんでもいる。
 写真も完全に無手勝流で、「ヘタな鉄砲も」方式で数撮ればそのうちに…!?
 しかし、いっこうにスキルアップの気配もない。
 ただこれを続けていると、人の撮った「すばらしい空」の写真に出会える機会も多くなった気がする。
 これが最高にうれしいこと!!

▼うれしいことがあった!!いつもお世話になっている武田康男さんの最新写真集が出た。
 さっそく存分に楽しませてもらった。今、最高の【お薦め本】だ。

◆【お薦め本】『すばらしい空の見つけかた』(武田康男[写真・文] 草思社2025.2.21)  

 例によって、先にお薦めポイントは3つだ。
(1)超一級の「すばらしい空の写真展」に行った気分になる!!

(2)わかりやすい科学的な解説は写真をより魅力的なものにしている!!

(3)自分でも「すばらしい空」を見つけたいと思わせてくれる!!

▼ではひとつずつ行こう。
(1)超一級の「すばらしい空の写真展」に行った気分になる!!

 「はじめに」のなかで武田康男さんはこう言っていた。

 とはいえ、空の現象の撮影が、すべて科学的知識と技術だけでうまくいくわけではない。空にも探検という要素がある。天候を判断して条件のよい場所に行き、一瞬の光景をタイミングよく狙う。暑さや寒さ、強風や大雨、徹夜などの撮影の辛さもあるが、大気の現象は五感で感じることが重要だ。そして、成功したときの充実感は心地よい。(同書P2より)

 そうだ!!
 武田康男さんは唯一の正真正銘の「空の探検家」である。
 その一瞬の光景をとらえるためなら日本中いや世界中(実際に第50次南極観測越冬隊員でもあった。)どこでもとんで行った。
 撮りためた超一級の「すばらしい空」の写真群は膨大であった。
 それらのなかから選りすぐった写真を書籍というかたちで出版された。
 それが今回の【お薦め本】である。
 それはいわば
 超一級の「すばらしい空の写真展」!!
 のようなものだった。
 実は私はちょうど10年前に実際の武田康男さんの写真展に行ったことがある。

 今回の「すばらしい空の写真」の数々を見せてもらっているうちに、そのときのことを思い出し、今回も写真展に行っている気分になってき   た。
 今回の「写真展」には3つのコーナーがあった。
・第一章 雲・雨・雪・雷      15点
・第二章 不思議な光・光の不思議 14点
・第三章 高い空・月・太陽・宇宙 12点
 各コーナーの扉にも写真があった  3点
 合計44点もの超一級の「すばらしい空」が楽しめようになっていた。
 この「写真展」のアリガタイのはどのコーナーから入ってもよかった。
 そして、繰り返し出入り可能である。
 もっとうれしいのは、いつでも 何度でも 訪ねることができることだ!!

(2)わかりやすい科学的な解説は写真をより魅力的なものにしている!!   
 少し急ぎ足で44点の写真を見て回っておいてから、「お気に入り」を選んだ。
 その写真の「解説」を読んだ。
 写真には「タイトル」と「解説」をまめた「サブタイトル」がつけられていた!!
 うまいな!! さすがだ!!
 その一枚の写真のバックグランドが、わかりやすく科学的に語られていた。
 それを読むと、ますますその写真が魅力的に見えてきた。

 この「写真展」を行ったり来たりしながら
 私のお気に入り「Best3」を選んだ!!
 【Best1】逆さ富士 湖で逆さ富士を見るのが難しい理由
 【Best2】五重の笠雲 五重塔のような雲を生んだ風の正体
 【Best3】月虹 月夜で雨のときにしか見られない
 【次点】 青天の霹靂 晴れた空の下でも落雷は起こる

 と言いながら、今度行ったら変わってきた!!
  あなたならどれを選びますか!? 

▼最後のお薦めポイントに行こう。

(3)自分でも「すばらしい空」を見つけたいと思わせてくれる!!

 超一級の「すばらしい空」の写真に感動するばかりである。
 しかし、そのわかりやすい「解説」を読んでいると、ひょっとしたら「ヘタな鉄砲」方式ばかりの私にも見つけることができるかも知れない。
 そう思わせてくれるのはホンモノの「空の探検家」=武田さんのワザであろう。
 ひょっとしたら、私も見たかも知れないもの2つ

【見たかも1】皆既月食中の天王星食 太陽と地球と月と天王星が直線上に
【見たかも2】富士山から見た落雷 雷を見下ろす不思議な光景 
  
あなたはどうですか!?

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【お薦め本】『みんなの高校地学』(鎌田浩毅・蜷川雅晴著 講談社)

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▼今ゆっくりゆっくり進めている「動く大地」を科学する のシリーズも、
 毎日の「雲見」や【宇宙見物】も、考えてみるとみんな同じ科学だった。
 「物理」「化学」「生物」「地学」の領域で言えば、みんな「地学」だった。
 今もなお道楽の科学として、つきあっているのも「地学」だった。
 
▼そんななじみの「地学」の<キホン>を、わかりやすく語ってくれいる本と出会った!!
 それが、今回の【お薦め本】だ。

◆【お薦め本】『みんなの高校地学 おもしろくて役に立つ、地球と宇宙の全常識』(鎌田浩毅・蜷川雅晴著 講談社 2024.12.20)

 「全常識」なんて言われるちょっとビビッテしまうな。
 「高校理科」なんて言われも、半世紀以上前の話だ。そんな私が勝手に読んだ第一感想文のようなものだ。人への【お薦め本】と言うより、後の自分のための「記録」として残しておきたいと思った。
 例によって3つのお薦めポイントをあげておく。

(1)防災・減災対策としての「高校地学」の提案!!
(2)私の「地学」にカスタマイズための教科書!!
(3)「地学」情報最前線を知ることができる!!

▼ではひとつずつ行こう。
(1)防災・減災対策としての「高校地学」の提案!!
 この本を読んでしまって、これを書いているのかというとそれは正確ではなかった。
 読んだのは
 ・まえがき 
 ・序章 日本列島と巨大地震
・おわりに 高校地学のエッセンス
だけである。
 正直に言うと「なかみ」に相当する 第1章「地球の姿としくみ」~第4章「はてしなき宇宙の構造」は、パラパラとベージをめくっただけだった。
 そんな状態でどうしても【お薦め本】にあげたいと思ったのは、「まえがき」のなかで 次なる一文をみつけたからです。

とはいえ、自然が引き起こす巨大災害を、人が完全に防ぐことは不可能でしょう。われわれは災害をできるかぎり減らすこと、すなわち「減災」しかできません。
 では、最も効果的な「減災」の手段とは何でしょうか。結論から言えば、それはやはり「地学を勉強すること」だと言えます。(同書「まえがき」P5より)

まったく同感です!!
だからこそ、この本はやっぱり今最高の【お薦め本】です。

(2)私の「地学」にカスタマイズための教科書!!
次に決定づけたのはこの本のタイトルです。
 『みんなの高校地学』の「みんなの」がいいです。
 「みんな」が宇宙船「地球号」の乗り組み員です。
 これは間違いのない事実です。
住む家を探すときには明日の暮らしを考えることも大切ですが、子どもたちが大きくなった日のことも視野に入れる必要があります。「長尺の目」で見るとは、いま現在の居心地を考えるだけでなく、もっと長い目で物事をみつめることです。
 こうした視座の大切さを、本書で「高校地学」を学びなおすことによって身につけていただきたいと願っています。人類の地球という「居場所」を考えるうえで、地学は大きなヒントを与えてくれるからです。(同書P325より)

ちょっとここまでだけではアリキタリですね。
  私がここでどうしても力説しておきたいことがもうひとつあります。
 『みんなの「高校地学」』の有意性を理解するだけでなく、誰もが私の「地学」を楽しみながら構築してほしいのです。
 それが楽しく学び続ける最大の秘訣だと思っています。
 私の「地学」にカスタマイズするためのヒントがここにあります!!

▼最後のお薦めポイントに行こう。
(3)「地学」情報最前線を知ることができる!!
「高校地学」の特徴として、次のようにあがっているのです。

  高校地学はたいへん広い領域の現象を扱いますが、他の科学分野とは違う特徴を諸っています。そのひとつは高校生に学問の最先端の内容をすぐ教える、という点です。
 ……
 これに対して、地学の内容は、なんと21世紀に展開中の地球温暖化や磁場の消滅やプルームテクトニックスまで教科書で扱われているのです。
 よって、私たちが授業で扱うときも、先週発表された論文に書いてある内容を紹介したりすることがあります。その第一の理由は、地学は地震・火山・気象・天文・宇宙など、われわれの生活に身近な材料が多いからです。(同書P325より)

 これはある面、授業「理科」の有効性を説いてくれているのです。
 それは、イベント「理科」から授業「理科」への途を示唆してくれているのかも知れません。
  
「もっと学びたい人へ」として、参考文献が多数紹介してあるのもとても役に立ちそうです。

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【私の読んだ本・ベスト18】2024!! #2024年 #お薦め本

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▼年末恒例の【私の読んだ本・ベスト18】をあげてみる。
 リストアップするのは、この2024年一年間に【お薦め本】としてあげたもの18冊である。
 さすがに18冊ならべてみると圧巻だった。
 順番はあくまでここに【お薦め本】としてあげた順番である。

【その1】【お薦め本】『読み終えた瞬間、空が美しく見える気象のはなし』(荒木健太郎著 ダイヤモンド社)
 ・「雲見」をより豊かに楽しくしてくれる一冊だった!!


【その2】【お薦め本】『石は元素の案内人』(田中陵二 文・写真 福音館)
 ・あの著者が、「石」と「原子論」をツナイデくれた!!


【その3】【お薦め本】『科学実験 お楽しみ広場』(本間明信・小石川秀一・菅原義一 編集 新生出版)
 ・科教協 「お楽しみ広場」の歴史がココにある。


【その4】【お薦め本】『クモのイト』(中田兼介著 ミシマ社)
 ・ずっと「クモはすごい」を語ってくれるこんな本を待っていた!!


【その5】【お薦め本】『まちぶせるクモ 網上の10秒間の攻防』(中田兼介著 コーディネーター辻 和希 共立出版)
 ・プロの書いた最高の「クモ学」すすめ の書!!


【その6】【お薦め本】『ウマは走るヒトはコケる 歩く・飛ぶ・泳ぐ生物学』 (本川達雄著 中公新書)
 ・私の「動く」を科学してみたくなったら読む本。


【その7】【お薦め本】『熊楠さん、世界を歩く。 冒険と学問のマンダラへ』(松居竜五著 岩波書店)
 ・南方熊楠をうんと身近に引き寄せてくれた本だ。面白い!!


【その8】【お薦め本】『ファラデーのつくった世界!』(藤嶋昭・落合剛・濱田健吾著 化学同人)
 ・居ながらにしてファラデーの「ロウソクの科学」を追体験できる!!


【その9】【お薦め本】『竹取工学物語』(佐藤 太裕著 岩波書店)
 ・身近な「竹」を徹底的に楽しく科学する。植物「竹」の見方がかわる!!


【その10】【お薦め本】『最高にすごすぎる 天気の図鑑』(荒木健太郎著 KADOKAWA)
 ・家でできる「大気の物理学」実験満載!!動画で個人レクチャーも。


【その11】【お薦め本】『変動する日本列島』(藤田和夫著 岩波新書)
 ・「近畿トライアングル」はここからはじまっていた。


【その12】【お薦め本】『日本列島の生い立ちを読む』(斎藤靖二著 岩波書店)
 ・「地質学」の基本の「き」から。「付加体」についても


【その13】【お薦め本】『プレートテクトニクスの拒絶と受容』(泊 次郎著 東京大学出版会)
 ・「プレートテクトニクス」の歴史の全容がみえてくる。現在進行形のあつい「科学史」!!


【その14】【お薦め本】『三つの石で地球がわかる』(藤岡換太郎著 講談社 ブルーバックス)
 ・「三つ」にこだわることによって、石の科学の全容が見えてくる。


【その15】【お薦め本】『うんこ虫を追え』(舘野 鴻 文・絵 福音館)
 ・「ふしぎ!?」を追うことの面白さ、楽しさを教えてくれる絵本。


【その16】【お薦め本】『新編 空を見る』(文 平沼洋司 写真 武田康男 ちくま文庫)
 ・名著中の名著の新編。文庫本化することにますます名著に!!


【その17】【お薦め本】『インターネット文明』(村井 純著 岩波新書)
 ・「インターネットの父」が、インターネットの今とこれからを熱く語る!!


【その18】【お薦め本】『今すぐ見上げたくなる! やさしい空と宇宙のはなし』(武田 康男・縣 秀彦 著 緑書房)
 ・空と宇宙のプロ達の「対話」が最高に面白く楽しい!!

 さあ、来年はどんな本に出会えるかな。

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【お薦め本】『今すぐ見上げたくなる! やさしい空と宇宙のはなし』(武田 康男・縣 秀彦 著 緑書房)

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 賢治の「雲見」!!
 と
 寅彦の【宇宙見物】!!

 それらが私の究極の道楽である。
 それらはいずれも空を見上げるところからはじまる。
 自然観察のはじまるところ
 空は「気象」と「天文」が交叉するところ
 ツナガッテいるところ

▼ その面白さをより豊かにふくらませてくる本が出た!!
それが今回の【お薦め本】である。

◆『今すぐ見上げたくなる! やさしい空と宇宙のはなし』(武田 康男・縣 秀彦 著 緑書房 2024.11.20)

 面白そうな企画だな。
 と思って、手に取ってみて読み始めるととまらなかった。
 想像していた以上の面白さだった!!
 いっぱいお薦めポイントがあって書き切れるものではない。
 話があまりに拡散してしまわないように、いつものように3つに絞っておこう。
 
 (1)プロ達の「対話」形式の科学がわかりやすく面白い!!
 (2)画像(写真)・資料が豊富に記載されている!!
 (3)空と宇宙の最新情報がわかり、「対話」に参加してみたくなる!!

▼では、ひとつずつ少しだけくわしく
(1)プロ達の「対話」形式の科学がわかりやすく面白い!!
それぞれの分野で活躍中の著名なお二人の「対話」形式のコラボ!!
 誰が企画されたんだろう!?
 もうそれだけで、特別「企画賞」もんだ。
 「対話」形式の展開は、単独の著者の展開ではなかなか見られない面白さがあった。
 それにとてもわかりやすい!!
 お二人とも、元高校の先生だ!!
 どこかで「わかりやすく」「面白く」「楽しく」伝えるを意識されているように思った。 全編を通して「授業」を参観させてもらっているような気分になった。
 アリガタイ!!
 その問答のすべてが面白かったが、ひとつだけあげるとするなら、私はここがいちばん面白かった。

 ・どうして緑色の星がない?
 (武田) 気象では虹にはもちろん緑があるし、彩雲やグリーンフラッシュという緑色の現象が結構あります。緑色に見える現象はすごく貴重ですが、確かにある。
 一方、天文の本や、教科書に出てくる星の色を見ると、白っぽい星、青白い星、青っぽい星、赤っぽい星、オレンジ色の星、黄色の星がありますが、緑色がない。実は小さい頃に、このことがすごく疑問だったんです。当時はいろいろ調べても、誰に何を聞いてもちゃんと答えてくれる人がいませんでした。
 ぜひ、緑色がない理由を縣さんに教えていただきたいと思います。今も、当時の私と同じように思っている人がいるんじゃないでしょうか。「どうして緑色の星がないの?」って。(同書P112より)

 この後の縣さんの展開が凄かったです。
・星と温度と色の関係
・コペルニックス、ケプラー、ニュートンの時代
・写真の発明と天体分光学
・分光すると何が分かるか(組成、運動、温度)
 と「天文学の歴史」そのものまで話が及び、そしてこう答えているのです。
・「緑色の星がない理由」の答え
(縣) さて、緑色の星のないのはなぜか。この答えはというと、「緑色だけで光っている星がないから」です。
 仮に、……」(同書P117より)

  後は実際に本書を手にとって読んでみてください。
  実にうまい!! 
  このように唸ってまう箇所がいくつもありました。

(2)画像(写真)・資料が豊富に記載されている!!
 「対話」の展開もさることながら、使用されている画像(写真)・資料も的確で美しいです。
 「対話」のテーマにピッタリのものが選ばれています。
  さすがです。
 「空の探検家」=武田康男さんの撮りためた膨大な写真から選りすぐられたねのだからでしょう。
 国立天文台の縣秀彦さんならでは資料は説得力をもっています。
 特に興味深かったのは次です
  
  フォーカス②
空と宇宙の見た目が似た現象 (同書P80より)
・雲と星雲
・飛行機雲と彗星
・レンズ雲(笠雲)とレンズ状銀河
・台風と銀河
・竜巻と宇宙ジェット
・大気の風と太陽風
・地球と宇宙空間
・地球の夕焼けと火星の夕焼け
・地球と地球に似た星

 特に「火星の夕焼け」は必見!!なぜ!?

▼最後のポイントに行きましょう。
(3)空と宇宙の最新情報がわかり、「対話」に参加してみたくなる!!
 最前線で活躍中のお二人の「対話」は、空と宇宙の最新情報を教えてくれます。
 教科書にはのっていない切り口で、空と宇宙の「ふしぎ!?」にせまります。
  私にとって特に「目からウロコ」だったのは2つあった。
・天文と気象の異なる時間のとらえ方(同書P108)
・天球と透明半球(同書P119)

  「これから」についてもお二人がたいへん興味深いことを語っておられます。
 

 (武田)…SNSは気になる人の目にとまりやすいですし、自然に参加型の活動ができてくるのではないかと思っています。
こういった活動は、ハードルが高いことではないと思いますが、誤った情報を出さないことには気を付けなければいけませんね。あとは写真を変に加工したりしないことでしょうか。
 きちんと記録して、科学的に正しい情報を出せば、新しい科学の方法が生まれると思います。みんなが研究者になれる。雪の結晶や低緯度オーロラなど、できるものからシチズンサイエンスは始められます。(同書P126より)

(縣)…スーパーコンピュータやAIが発達していけば、まだ知られていない宇宙の姿が見えてくるかもしれない。気象現象もそうかもしれませんね。今はそういう時代の過渡期にいるはずです。宇宙や気象の理解も、100年後には全く変わっているかもしれません。(同書P133より)

 思わずお二人の「対話」に参加してみたくなりますね。
 毎日の「雲見」と【宇宙見物】が益々楽しくなりそうだ!!

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【お薦め本】『インターネット文明』(村井 純著 岩波新書)

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▼【理科の部屋】は、1993.11.23にスタートしました。
 創設されて間もないころのひとつの人気企画として、【オンライン学習会】というのをやっていました。一冊のきめられた本をテキストとして、オンラインで意見交換をしたりして、学び合うという画期的な企画でした。
 遠く離れた人たちとも時空を超えて楽しく自由に学び合える雰囲気が最高でした!!
 その第4期は1996年4月~9月の半年でした。
 選んだテキストは
〇『インターネット』(村井純著 岩波新書 1995.11.30 )
でした。そこから実に多くのことを学んできました。

▼それからほぼ30年の月日が経った。
 その『インターネット』の著者である村井純氏=「インターネットの父」が最新刊を出されたという。ずっと気になっていた!!

◆【お薦め本】『インターネット文明』(村井 純著 岩波新書 2024.9.20)

 そして、読んでみた。
 やっぱり面白かった。わかったつもりになっていただけで、読んでみてはじめて知ることも多かった。これはぜひ【お薦め本】としてあげておきたいと思った。
 例によって、お薦めポイント3つを先に挙げておく。
  
(1)インターネットの「現在地」がわかる!!
(2)インターネットの「これから」が見えてくる!!
(3)私とインターネットを考えるヒントがここにある!!

▼ではひとつずついきましょう。
(1)インターネットの「現在地」がわかる!!
少し長くなりますが、前著『インターネット』の最後をこのようにしめくくりました。

 われわれは「北風と太陽」と言ってきました。「こういうものを使わなければ困ったことになるぞ」と、強迫観念を与えてものごとを推進していこうというのは、いわば『イソップ物語』でいう「北風」です。そうではなくて、「こんなによいことが起こるのだ、こんなに有効なものなのだ」と、まずコンピュータ・サイエンスの分野が成果を示し、そしてほかの分野を動かしてきたのです。
 「太陽」のやりかたというのが、インターネットのいいまでの発展を支えてきたのではないか、これからもインターネットはそのような形で発展していくのではないかと思っています。(『インターネット』P205より)

  それから約30年!!
 本書では「文明」としてのインターネットをこう語っています。
 インターネットのある世界を一度でも味わった人は、それ以前の世界にはもう戻れません。「文明」の恩恵は、そこに属するすべての人にあまねく行き渡り、それによって、私たちの暮らしが、私たちを取り巻く世界が、根本から変わってしまう。インターネット以前とインターネット以後は、まるで別世界です。それこそが、インターネットが「文明」たるゆえんなのです。
 もうひとつのパラダイムシフトが、人をつなぐたために発展してきたインターネットは、もはや、人だけでなくモノをもつなぐということです。(同書P20より)

 インターネットの開発には、常にそのようなところがあります。なぜならインターネットは、第1章で述べたように、人間の創造性と夢と課題の解決をするための挑戦のプラットホームなのですから、それがインターネット文明なのです。つまり、人間をリスペクトして、人間に期待をするという意味では、5Gやそのあとのモバイルサービスの世界の本当の実力は、それを前提にした社会が整った先から出てくるのです。(同書P76より)

 著書のタイトルが象徴的です。
 約30年で『インターネツト』から『インターネット文明』へと進化・深化したのです。
 最前線の現場で活躍しつづけてきた「インターネットの父」のコトバはわかりやすく説得力を持っています。
 意味もわからず「聞きかじっていた言葉」がつながり、「そういうことだったのか!!」とはじめて知ることも多かったです。
 インターネットの「現在地」がわかってきます。

▼次にいきます。
(2)インターネットの「これから」が見えてくる!!
 インターネットの「これから」についても示唆的な文言が多いです。

その結果、経済という従来の評価軸に加えて、我々の命や、我々が暮らす社会、あるいは、我々を取り囲む環境に対してどのようにコミットメントできるのかという評価軸が重要にとなってきました。「人」軸、「社会」軸、「環境」軸のインターネットの登場です。(同書P225より)

 公共的なことに対する信頼感、安全・安心な取り組み、他者に対するリスペクトと思いやり。何らかの手を打ったときに、それが一部の人だけでなく、すべての人に行き渡り、全員がその恩恵を享受できる仕組みづくり。
 こうした点は、地球全体のサステナビリティを考えていくときのヒントとなるはずで、日本のリーダーシップが望まれる部分だと思います。(同書P234より)

 日本のいや世界のインターネットを牽引してきた人ならではの貴重な提言もあります。
 さらに50年後のインターネツトをにらんで、このようにも言っています。
 そのときに指針となるのが、インターネットにとっては「生命と地球のために」という視点です。このふたつを根本的な使命として、インターネツトガバナンスを考えていかなければいけません。それが、インターネットをひとつに保つ秘訣なのだと思います。
(同書P244より)


(3)私とインターネットを考えるヒントがここにある!!
 実は私の最大のお薦めポイントはここです。
 著者は、今度の『インターネット文明』の最後をこうしめくくりました。

 インターネットを構築してきた私たちが、どのような思いで設計と運用に取り組んできたのかを執筆した岩波新書の『インターネット』から約三〇年を経て、当時の理想としていた「すべての人のためのインターネット」がほぼ実現することとなりました。その前段となる研究活動から、現在に至る過程に専門家として関わってきた対象を、改めて「インターネット文明」として捉えた本書が、少しでも現在と未来を構築する方々のお役に立てばこれ以上の喜びはありません。(同書P247より)

 さあ、ここからは私たちの番です。
 今一度、「私とインターネット」の現在と未来を考えてみましょう。
 ひとりひとりのインターネットへの関わり方はちがいます。
 だから「課題」も多種多様で異なります。
 しかし、
 その「課題」解決向けたヒントは必ずここにあります。

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【お薦め本】『新編 空を見る』(文 平沼洋司 写真 武田康男 ちくま文庫)

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▼昔出会った本で、とても気に入った本があった。
 本棚のいつでもとりだせるところにおいて置いて、「雲見」をしていて、気になることがあると、「たしかあそこに書いてあったはず」と思いだして繰り返し参考にさせてもらってきた。
 そんな名著の新編が文庫版で出たという。
▼さっそく手に入れて読んでみた。
 それが今回の【お薦め本】である。

◆【お薦め本】『新編 空を見る』(文 平沼洋司 写真 武田康男 ちくま文庫 2024.10.09)

読み始めてみて自分でも驚いてしまった。
 面白い!!
 あれっ!? こんなにも面白かったのか!!
 ぜひとも【お薦め本】にあげたいと思った。
 いつものようにお薦めポイント3つにしぼって先にあげておく。

(1)空の科学・文化・文芸・歴史が詰まった名エッセイ!!
(2)「空の探検家」の撮った最高の写真!!
(3)今、子どもたちに最もプレゼントしたい一冊!!

▼ではひとつずついこう。
(1)空の科学・文化・文芸・歴史が詰まった名エッセイ!!
 ひとつの空の事象をとりあげ、それにまつわる科学・文化・文芸(文学)・歴史の話が興味深く語られていた。文学作品の一節がとりあげられたかと思うと、世の東西問わずの気象学の歴史が登場する。その守備範囲の広さには驚くばかりである。
 だからその事象(景)は、いっそう印象深いものになるのだった。
 まさに名エッセイ群だ!!
 このエッセイ群を読めば、きっとあなたも空を眺めたくなるはずだ。

 普段は気にしない空や雲。しかし、空を眺めることで心をなぐさめ、心身を豊かにしてくれる何かがあるように思う。そう、“人間にはパンだけでなく、心や魂にも栄養が必要なのだ”。そんな心の栄養である自然を眺めてみませんか。
 (同書「はじめに」P9より)

(2)「空の探検家」の撮った最高の写真!!
 この名エッセイを可視化し、補足しているのが「空の探検家」=武田康男さんの写真である。それは単なる補足だけでなく、エッセイの世界をより豊かに膨らませてくれていた。 今回はより意識して
 エッセイ→写真→エッセイ→写真→
 と何度も往復運動をしながら楽しませてもらった。
 今回、文庫本化することでとても読みやすくなりこの楽しみが増えたような気がする。

▼そして、最後のお薦めポイントにいこう。
(3)今、子どもたちに最もプレゼントしたい一冊!!
 「おわりに」の平沼洋司さんの文章に興味深いことが書いてあった。
 「ちくまプリマーブックス」の一冊として『空を見る』が出版されたのは二〇〇一年一月だった。
 

出版後二〇〇一年の第四七回青少年読書感想文全国コンクール(応募総数全国で四〇四万篇)で、この本を読んで感想文を書いてくれた名古屋の中学生、原田宗幸さんが中学生部門の第一位の内閣総理大臣賞に輝いた。(同書P184より)

 コレだと思った。
 なんとしても原田宗幸さん(当時中学2年生)の感想文が読みたいと思った。
 なんとかたどり着き、読むことができた!!
 感動した!!
 さすがデアル、私のヘタなお薦め文が恥ずかしくなってきた。
 これぞ最高の【お薦め本】コメントだ。

 そこで、私は思った。
 今の中学生がこの本を読んだらどんな感想をもつだろう!?
中学生とはかぎらない
 今の子どもたちにぜひぜひ読んでもらいたい!!
今、子どもたちに最もプレゼントしたい一冊だ!!

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【お薦め本】『うんこ虫を追え』(舘野 鴻 文・絵 福音館)

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▼私はここ15~16年のあいだにとても「ふしぎ!?」な生きもの三つに出会った。
・クマムシ
・ゲホウグモ
・コウガイビル
それらは、少し大袈裟に言えば私のこれまでの「生きもの観」「生命観」「動物観」を根底的にひっくりかえすものであった。
その「ふしぎ!?」は、今なお追いつづけている。
これら生きものについて共通することがあった。それらはみんな共通して我が家の庭で出会ったということである。
最高の「ふしぎ!?」は、もっとも身近にある!!
はほんとうだった。
 
▼ちょっとこういう言い方をするのもおこがましいが、同じように生きものの「ふしぎ!?」を追いかける人と出会った。
 その人が書いた絵本が今回の【お薦め本】である。

【お薦め本】『うんこ虫を追え』(たくさんのふしぎ傑作集)(舘野 鴻 文・絵 福音館 2024.5.10)

 さすが「たくさんのふしぎ傑作集」に選ばれているだけのことはある。
 じつに面白い!!
 いっきょに読んでしまった。

 いつものように【お薦めポイント】3つを先にあげておく。

(1)「ふしぎ!?」を追う楽しさを教えてくれている。
(2)「ふしぎ!?」を追う方法が学べる。
(3)きっと自分でも「ふしぎ!?」を追ってみたくなる。

▼ではひとつずついきましょう。
(1)「ふしぎ!?」を追う楽しさを教えてくれている。
こんな一文からはじまります。

 オオセンチコガネという虫がいる。
 宝石のようにキラキラ輝き、まるっこい体に短い手脚もかわいい。
 そして、この虫の大好物は……うんこ。つまりうんこ虫だ。
 うんこに宝石、このギャップたまらなく魅力的。(同書P1より)

 なんでまた「うんこ虫」なんだ!?
 そんな疑問は、読み進めればすぐにわかってきます。
 「あとがき」に相当する巻末の「わらない。だからおもしろい。」の文は次のようにはじまっています。
 草も虫もケモノも、産まれて死んでいくのはみんな同じ、嫌いな虫も「何をしているんだろう」とか、「頑張ってるんだな」とか、そんなことをふと感じた瞬間に、ちょっと愛おしく見えてくるものです。虫だけではなく、身の回りにある全てのものでも、「知れたい」と思ってじっくり観察していると、その観察対象は自分にとって特別なものになり、不思議と輝いてきて、それまで自分が知らなかったあたらしい世界が見えてきます。おじさんになった私は、今でもそうです。(「わからない。だからおもしろい。」より)

 まったく同感です!!
 「ふしぎ!?」を追いかけるとはそういうことだと思います。

ではふたつ目に行きましょう。
(2)「ふしぎ!?」を追う方法が学べる。
まずは展開をプロットしてみよう。 
「飼ってみる。」
「ちゃんと飼ってみる。」 
「掘り出し。」   
「失敗」
「一瞬のよろこび、そしてまた失敗」
 ナルホド!!うまいな!!
 さすが絵本作家だ。わかりやすい楽しい絵もともなって、この世界に引き込まれていく。
 そして、次だ!!これはホンモノだと思ったのは
「オレフン!」
 なに!?そこまでやるのか!!
 この人の「ふしぎ!?」追う姿勢は半端ではなかった。徹底していた。
姿勢だけではなかった。全てが本格的であった。
「オオセンチタワー。」 
「牧場を掘ってみる。」
「オオセンチタワーの衝撃。」
「オオセンチコガネの育児塊はこう作られる」
「なぜ地下深くに育児塊を作るのか。」
等々とつづいていく。
次々と「ふしぎ!?」が生まれてくる。
その「ふしぎ!?」をどのように「科学する」か、が具体的に語られている。
実に痛快で面白い!!勉強になるな!!

「ふしぎ!?」(疑問)→仮説→実験・観察→結果→考察(「驚きの発見」)
 そして、あらたな「ふしぎ!?」  

著者のコトバを借りよう。

 謎を探究していくと、とんでもない発見をしてしまうことがある。
 けど、それはもともと自然界にあること。
 答えは最初からそこにある。
 私たちが知らないことや見えていないことは、まだまだ山ほどあるのだ。
 謎は次から次にあらわれて、どこまでもつづいていく。(同書P38より)

▼最後のお薦めポイントに行きましょう。
(3)きっと自分でも「ふしぎ!?」を追ってみたくなる。
 これが本命中の本命なのかも知れない。
 これも、著者の誘いのコトバを借りよう。

 みなさん、本に書いてあることが全てではありません。あなたが私と同じことをやってみたとき、違うことが目の前で起こるかもかもしれない。それは誰も知らなかったことだったりします。やってみなければわからないのです。やればやるほどわからない。それが自然界です。わからないからおもしろい。おもしろいから納得いくまでやってみる。そんなことをみなさんと分かち合えたらなと思っています。
 (「ハードカバー版によせて 舘野 鴻」より )

 【アタリマエ!!の蛇足 ふたつ】
その1 絵本だから、とても絵が美しい!!わかりやすい!!面白い!!

その2 これはリクエスト!!
ハードカバー版帯に「国立科学博物館 特別展「昆虫」にて」
(会期2024年7月13日(土)~10月14(月・祝)
「この絵本で描かれている「発見」を展示!」と書かれている。
地方でもその「展示」の機会があるとうれしいな!!

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