
▼2012年4月からはじめたオンライン「寅の日」。
12日に一度巡ってくる「寅の日」、その日に科学者・寺田寅彦の随筆をオンラインで読むのである。もうその取り組みも15年目になっていた。
毎年一回だけ、特番オンライン「寅の日」を実施していた。
それは、毎年、大晦日(12/31)に実施していた。その日は寅彦の忌日(寅彦忌)でもあった。
(寺田寅彦は1935(昭和10)年12月31日に亡くなった)
特番オンライン「寅の日」に読む随筆も毎年同じ随筆「日本人の自然観」と決めていた。
それは、最晩年に書かれた随筆であり、寅彦のすべてがここに書かれていると思っているからだ。
◆オンライン「寅の日」
●「日本人の自然観」(青空文庫より)
その「日本人の自然観」を、「はじめに」と「おわりに」に二度にわたってまで引用された本が出されていた。もうそれだけでうれしくなってしまうのだった。
▼それが今回の【お薦め本】だった。
◆【お薦め本】『神と仏の人文地質学 地殻変動で解き明かす日本古代史』(巽好幸著 光文社新書 2025.12.30)
やはり予想どおり実に面白かった!!
感動が拡散してしまわないうちに「記録」しておきたかった。
例によってお薦めポイント3つあげてみる。
(1)「神さん」「仏さん」をめぐる「人文地質学」の面白さを教えてくれている!!
(2)変動帯の民の精神史を「人文地質学」で読み解いている!!
(3)自分の暮らす郷土の「人文地質学」を学びたくなってくる!!
▼少しだけくわしく
(1)「神さん」「仏さん」をめぐる「人文地質学」の面白さを教えてくれている!!
この本を読み解くキーワードは「人文地質学」だと思った。。
この本のタイトルになっているぐらいだからアタリマエのこと!!
あまり聞き慣れないコトバだ。私が知らないだけかも!?
著者は言う
ここでは、ある地域の文化や人々の精神性の成立を地質学の視点から考えることを「人文地質学(geo-humanities)」と呼ぶことにします。この場合の地質学とは、地表や地下にある地層や岩石の成り立ちを調べる狭義のそれではなく、もっと広範な対象の進化を扱うもので、高校の教科でいえば、ほぼ「地学」です。
(同書P8より)
「人文地質学」展開のためのステージは3つ用意されていた。
第1部 ヤマト王権成立の人文地質学
第2部 霊性の大地「熊野」成立の人文地質学
第3部 神仏融合の人文地質学
どのステージにおいても、展開の主軸に「神さん」「仏さん」がいた。
もう少しステージごとの展開をくわしく見ていこう。
第1部 ヤマト王権成立の人文地質学
の展開において、最初に次のように語っていた。
ヤマト王権が奈良に生まれた理由の一つとしてよく指摘されてきたのは、この地が稲作に適した土地、すなわち平坦な盆地で比較的水に恵まれていたことです。このような地形的な特徴は、大地の動きを含む地質現象によって形成されます。したがって、奈良盆地の地質学的な特性を理解することで、より深く、あるいはこれまでとはちがう視点で、ヤマト王権成立の背景に迫ることができる可能性があると私は思っています。
(同書P21より)
事実たいへん興味深い展開をみせてくれていた。特に興味を惹いたところをビックアップしてみると
「奈良盆地を平坦にしたもの」
「プレート運動が造った奈良盆地」
「神奈備としての三輪山」
「国家祭祀の始まりと気候変動」
「過去の気候を復元する古気候学」
「古代の天気を記録したセルロース」
等々 あげていけばきりがない面白い展開だ。
断片的にこれまで知っていたことが、ひとつのストーリーをもってつながってくのは実に面白い。
なかでも、個人的な興味として
「伊勢が選ばれた理由」
のなかで、「丹生」のことにふれられているのがとても興味深かった。
(「丹生」を追う)
第2部 霊性の大地「熊野」成立の人文地質学
ここでも同様に、こう語っていた。
ではなぜ熊野は霊性の大地となったのでしょうか?この問いに答えるには、地質学的な視点が必須です。なぜ、紀伊半島が太平洋に突き出した半島になったか。なぜ紀伊山地は深山幽谷なのか?そしてなぜ熊野には巨岩・奇岩などを対象とした「磐座信仰」が発達したのか?これらの霊性の大地成立のストーリーは、地質学によって明らかになります。 (同書P107より)
すべてのはじまりはここにありました
「約1400万年前の巨大カルデラ火山」!!
この地球史上最大規模の「大地の変動」のメカニズムをくわしく語ってくれています。
にわかには信じがたいほどのダイナミックな話です。
それらを、次の第3部の最初にも、まとめてくれています。
アジア大陸の分裂によって太平洋へと迫り出した日本列島。漂移する西日本の行手には誕生間もない熱い四国海盆が広がり、その上へ西日本がのしあがった結果、超ド級のマグマ活動が勃発しました。特に紀伊半島では4つのカルデラ火山が活動し、地下には巨大な熊野岩体が形成されました。そしてこの巨大地下岩体を沈み込むフィリピン海プレートが推し押し上げたことで、紀伊山地が隆起、こうして熊野は深山蓊鬱なる「聖域」となったのです。(同書P214より)
なんとドラスティクな展開だ。
▼次のお薦めポイントに行きたいと思います。
(2)変動帯の民の精神史を「人文地質学」で読み解いている!!
3つめのステージである
第3部 神仏融合の人文地質学
ここが、もっとも該当するところになるだろう。
「神仏融合」!!
これこそ、実はこの本のもうひとつのメインテーマなんであろう。
著者の最初の「ふしぎ!?」
「お寺の入り口に立派な鳥居が立っている」のはなんでなん!?
から始まった謎解き。
第6章 国家体制の大転換
第7章 朝廷が仕掛けた神仏融合
で展開される「神仏融合」にいたるプロセスの謎解きは探偵小説より面白いです。
謎解きのベースにはいつも「人文地質学」あります。
最後に次のようにまとめておられました。
このような日本列島で起きた大地の変動との関連を見ると、神仏融合は「変動帯の文化」として進化を遂げたといえるのではないでしょうか。
さらにこのような視座に立つと、日本の文化や風土それに日本人の精神性は、変動帯の民が日本列島の大地の変動に畏敬と畏怖の念を抱き、一方で恩恵に感謝しながら育まれたものと見なすことができます。「はじめに」でも述べたように、大地の変動とそこに暮らしてきた人間の関係を紐解くのが「人文地質学」です。
(同書P326より)
最後お薦めポイントに行きます。
(3)自分の暮らす郷土の「人文地質学」を学びたくなってくる!!
これはお薦めポイントというより、私の「感想」に近いです。
浅学無知な私には、夢の領域に近い話ですが、
今暮らす郷土の「人文地質学」を学びたいと強く思いました!!
この本は、そんな思いを抱かせてくれた本です。
【オマケ】お薦めポイントの追加
・各章には必ず「第〇章のまとめ」がついています。
シロウトの私には、こんがらがってしまった「頭の整理」にとても役に立ちました!!
アリガタイ!!
蛇足の蛇足を承知で、最後に著者の真似をして、最初に紹介した寺田寅彦「日本人の自然観」から、著者が最後に引用されているのと同じ部分を引用させてもらいます。。
仏教が遠い土地から移植されてそれが土着し発育し持続したのはやはりその教義の含有するいろいろの因子が日本の風土に適応したためでなければなるまい。思うに仏教の根底にある無常観が日本人のおのずからな自然観と相調和するところのあるのもその一つの因子ではないかと思うのである。鴨長明の方丈記を引用するまでもなく地震や風水の災禍の頻繁でしかも全く予測し難い国土に住むものにとっては天然の無常は遠い遠い祖先からの遺伝的記憶となって五臓六腑にしみ渡っているからである。
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