【お薦め本】『生命と時間のあいだ』(福岡 伸一著 新潮社)

▼ここのところずっと大賀ハスの「あこがれの4日間」の「時間」のことにこだわっていた。
大賀ハスは花は、4日間だけ開閉をくり返す。
第一日目の朝、5時30分ごろを定刻として開き始める。
開き始めるとき花びらの順番までも決まっている。
第四日目の午前10時ごろ、それまで強い風にも耐えていた花びら・雄しべは一斉にバサッと落ちた!!
大賀ハスの花はどうして「時間」を知ったのだろう!?
大賀ハスの花の「生命」とどんな関係があるのだろう!?
▼そんなシロウトの「ふしぎ!?」を考えているとき、とても興味深いタイトルの本と出会った。著者は「動的平衡」の福岡伸一氏だ。
◆【お薦め本】『生命と時間のあいだ』(福岡 伸一著 新潮社 2025.07.30)
これが今回の【お薦め本】である。
あまりに面白く、どうしてもこれを書いてみたくなった。
面白さの余韻を少しずつ楽しみがら書いていきたい。
いつもように、お薦めポイントは3つしぼっておく。
(1)自らの「生命観」「時間論」に向き合うために!!
(2)「動的平衡」を鍵に、多くの人の「世界観」を読み解くために!!
(3)「記憶と時間」を基軸とする文学の世界に誘ってくれている!!
▼それではひとずついってみよう。
(1)自らの「生命観」「時間論」に向き合うために!!
いつものことながら、冷静になって考えてみると大げさなこと言い出したものだ。
これもこの本があまりに面白く感動してしまったので、そのノリでついついこう書いてしまったのだ。
「時間論」なんて普段そんなに深く考えているわけではなかった。
この本に、少し触発された感じだ。
著者はまずはじめに「私の時間論」として、「生命体」「時間」に次のように述べていた。
生命体はエントロピー増大の法則にしたがって、その要素に分解され、時間とともに空間の中を拡散していく。だから要素の拡散運動を観察すると、時間の経過が観察されることになる。時間が空間に置き換えられている。この点において、時間は空間(の広がり)といえる。西田のいうところの「時間即空間」である。(同書P14より)
また、少し表現を変えてこうとも言っていた。
客観的な“時間”は実存しない。均一に一秒一秒、線形に経過していく“時間”とは、ヒトの脳が作り出した人工的な虚構にすぎない。もちろん、形あるものが壊れ、熱が拡散し、ゴミが散らばる、という意味での、ものごとの流転はある。しかしここにあるのは“時間”ではなく、エントロピー増大でしかない。エントロピー増大は時間の関数ではない。エントロピーの増大をどう感じるかは、受け取る者の感覚に依存する。さらにいえば、この流転を感じ取れるのは、私たち生命体が、エントロピー増大の法則に抗いながら、生命活動を行っているからだ。つまり、生命が存在するがゆえに、“時間”感覚が生まれる。ゆえにそれは極めて可変的・相対的なものだ。(同書P18より)
Ⅰ部「時間論の土台」と題されたこの後の展開がすごかった。
・ダ・ヴィンチ
・ダーウィン
・ガリレオ・ガリレイ
・レーウェンフック
次々と展開される科学史のなかの「時間」に引き込まれていくのだった!!
そして、私にとっての「時間」とは!?
に向き合ってみたくなるのだった。
次に行こう。
(2)「動的平衡」を鍵に、多くの人の「世界観」を読み解くために!!
Ⅱ部「時間を探求した冒険者」の展開も実に面白かった!!
・坂本龍一の時間論、または記憶
・『火の鳥』で手塚治虫が描いたもの
・生命とは何か
・シュレーディンガーの猫の先
・村上春樹に読む自己と他者のあいだ
・「頼りない」ものに心奪われるカズオ・イシグロ
私にとっては、まったくの未知なる分野の展開であった。
一話ごとに、次なる話の展開が楽しみであった。
私などの予想をはるかに超えたところで「時間論」が語られていく。
では、いったい時間の感覚はどこから来るのだろう。坂本龍一とわたしの対話の中での結論はこうだった。わたしたちが生きているからー生命現象こそが時間を生み出している。ベルクソンがいうとおり、生命は、物質の下る坂、つまりエントロピー増大の法則に絶えず抗って、秩序を維持しようと努力している。そのとき生命は、エントロピー増大の法則に先回りして、自身の秩序をあえて破壊し、その上で秩序を作り直している。
つまり生命は、エントロピー増大の法則に対して自ら加速し追い越している。この加速感が、未来を巻き込み、同時に過去を回収する。つまり現在というものに、未来と過去という厚みを加えた連続的な渦を作り出している。(同書P73より)
そして、あの名著『生命とは何か』の著者シュレーディンガーにふれて次のように語っていた。
シュレーディンガーが慧眼だったのは、ここに「エントロピー」の概念を導入したことだった。宇宙の大原則として、エントロピー増大の法則がある。エントロピーとは「乱雑さ」のことだ。宇宙のすべてのものは、乱雑さ増大する方向にしか動かない。秩序は無秩序へと推移する。ピラミッドのような壮麗な建築物も徐々に風化し、砂塵に帰す。金ピカの宝飾も錆びて色あせていく。整理整頓された部屋も乱れていく。熱いコーヒーはぬるくにり、熱烈な恋愛も冷める。そしてそれが“時”の流れる方向である。これがエントロピー増大の法則だ。この法則から免れることのできるものはない。
ところが生命だけは、このエントロピーの法則から免れているように見える。もちろん完全に打ち勝つことはできない。生命には必ず死があり、それはエントロピー増大則が、秩序を凌駕した状態である。(同書P101より)
こと左様に著者の「生命観」の本命=「動的平衡」を鍵に異次元の「世界観」に共鳴していく展開は、読者の「世界観」をも大きく拡げてくれる。
▼最後のお薦めポイントにいこう。
(3)「記憶と時間」を基軸とする文学の世界に誘ってくれている!!
正直に告白しておくと、ここからは私のまったく想定外の展開だった。
だからこそ、ここからがほんとうのお薦めポイントかも知れない。
著者はこんなことを語っていた。
新しい作家・作品を求めるのもよいだろう。しかし、過去の名著を読んでみること、あるいはもう一度、読み返すことにも大いなる意味がある。とくに自分が若い頃によんで深く心に残った物語を年を経て、再度、読み直すことは、自らの人生を生き直すことでもあ
ると思う。(同書P140より)
と言われても、若い頃からあんまりたくさんの本を読んでこなかった私などには「自らの人生を生き直す」ことに該当する本もにわかに思いつかないのが実情だつた。!!
こんな私にはアリガタイ、「記憶と時間」を基軸する「文学」の実例が紹介してあった。 オモシロイ!!
「文学」ってそんなに面白いのか!!
・丸谷才一著『笹まくら』
・安部公房著『方舟さくら丸』
・津島祐子著『ジャッカ・ドフニ』
・ヒュー・ロフティング『ドリトル先生航海記』
・バージニア・リー・バートン『せいめいのれきし』
・レイチェル・カーソン『沈黙の春』
どれもこれも目からウロコである。
みごとな紹介に誘われて、ぜひ自分でも読んでみたくなるのだった。
今度、図書館に行ってみようかな。
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