▼私は、糖尿病対策と「ひとり吟行」をかねて、基本的に毎日きめた歩数以上「歩く」ようにしている。
ちょっと天気の悪い日などがつづいて、「歩く」のをさぼっていると、体調悪く感じてしまう。また目を悪くしてしまい、車で移動することがなくなってしまっていた。
そんなこともあって、最近「歩く」にとっても興味を持っていた。
▼そんなとき、あの名著『ゾウの時間 ネズミの時間』の著者が、とても興味深いタイトルの近著を出しておられるのを知った。
それが今回の【お薦め本】である。
◆【お薦め本】『ウマは走るヒトはコケる 歩く・飛ぶ・泳ぐ生物学』 (本川達雄著 中公新書 2024.2.25)
最初から正直にことわっておく。
いつものことと言えばそれまでのことだが、ポンコツ頭の私には、この本の内容をまだよくわかっていなかった!!
それなのになんで【お薦め本】にあげるのだと言われれば困ってしまう。
でもやっぱり【お薦め本】にあげておきたかった。
それはなぜだろう!?
自問自答しながら、これを書いている。
いつものように、【お薦めポイント】3つをあげておく。
やや的外れという気もするが
(1)動物の「動く」を「力学」で読み解く!!
(2)アタリマエに見えていた動物の「動く」に感動する!!
(3)私の「動く」を科学してみたくなってきた!!
▼私が理解できる範囲でということで、ポイントひとつずつみていこう。
(1)動物の「動く」を「力学」で読み解く!!
動物の「動く」をこのように理解していた。
だから「はじめに」の冒頭の文にはうんと納得できた。
動く物と書いて動物。動物の最も動物らしいところは動くところだろう。餌を求めて出歩く、逆に餌にされそうになったら逃げる。時節になれば異性を求めてうろつく。季節ごとに棲みやすい環境を求めて長距離の渡りをするものもいる。サンゴやフジツボのように海底に固着している動物でも、幼少時代には大海原を移動して棲息場所を広げている。
(同書「はじめに」ⅰより)
その「動く」をより豊かに語ってくれるのだろうと期待していた。
ところが、正直言ってページめくるたびに仰天してしまった。
【コラム】には
・テコ
・ニュートンの運動の法則
・運動量保存則とフルード効率
等々
本文にも「流体力学」「連続の原理・ベルヌーイの原理」「抗力と流線形」等などごくアタリマエにでてくるのである。
物理・力学などあまり得意でない私は面食らってしまった。
そりゃそうだけど!?
なんだろうこの違和感!!
ちょっと期待を裏切られた気分でいた。ポンコツ頭の私には「力学」と「生物学」は別々の引き出しにしまれていた。(たいした「知識」ではないが)
しかし、最後の最後に、「おわりに」書かれたこの本の本意を読んだとき、この本がやっぱり【お薦め本】でまちがいないと思いだした。
少し長いが引用させてもらう。
子供は生きものが大好きだし、小学校や中学校で目に見える生物のことを学んでいる間は理科生物分野という教科も好き。だが、中学三年でメンデル遺伝の法則という目には見えないものが出てきたとたんに生物嫌いが増える。
重力や弾性力も見えないものだが、コケれば痛いしゴム製のパチンコの弾が当たればやはり痛い。これらの力は実感できるものなのである。だからそれらを使って説明すれば、自身の歩行や他の動物の動きも、そして動きの基礎になっている体の構造も、中学生なら実感を伴って理解できると筆者は思う。しかし重力や弾性力を中学物理分野できちんと学習した後でなければ、生物の授業でそれらを使った説明を行ってはいけないことになっている。そのため、動物の運動や、脊椎や肢の働きについて中学校ではきちんと説明されることなく、その状態のまま高校で分子生物学を学ぶことになる。
日々の生活に密着した運動と「それを可能にするために体がこんなふうにできているんだなあ」という実感を伴った理解。これらは良い社会人になり、健康な毎日を過ごすためには必須の生物学上の知識・理解だと筆者は強く感じているのだか、それを得る機会が、初等中等教育のどこにもない。だからこそ本書を書いた。(同書P285より)
(2)アタリマエに見えていた動物の「動く」に感動する!!
そういうことか!!
そのつもりになって本書を読み返してみると、ますます面白い!!
今までのアタリマエが感動的に見えてくる。
「ヘエー、うまいことなっとるな!!」
「誰がこんなすごいこと考えたんや!?」
「これぞ科学や!!」
などとひとり言を連発していた。
変なところにも感動していた。
歩く場合は肢を持ち上げて前に出す必要がある。肢が3本ならば、そのうち1本をもちあげれば2本肢で立つことになり、体は不安定になってしまう。肢が4本あれば、1本を持ち上げてもまだ3本は地面に着いており、この3本の肢の描く三角形から重心がはずないようにしながら肢を踏み出せば、体が不安定になることはない。4本肢とは静的安定を保って歩ける最低の本数なのである。実際、どの四肢動物においても、非常に遅く歩く場合には常に静的安定を保ちつつ進む。(同書P15より)
おおっ、これぞ「立春の卵」の力学ではないか!!
こんなのもあった。
結局、歩行においては重心を上げて重力位置エネルギーを蓄え、次に重心を落下させて蓄えた位置エネルギーを運動エネルギーへと転換して重心を前へと押し進め、さらにこの運動エネルギーを使い重心を再度押し上げて位置エネルギーとして保存し、またこれを次の一歩に使う。こうして重力位置エネルギーと運動エネルギーを相互に転換することにより、エネルギーを再利用し、輸送コストを節約しているのが、倒立振り子のように肢を振る歩行である。(同書P56より)
このように、きわめてアタリマエのことも、「力学」で科学してもらえば、うんと納得がいくのである。
やがてこの本のタイトル『ウマは走る ヒトはコケる』の意味も少しずつ見えてくるのだった。
私は、なかでも特に興味をもった動物の「動き」 は「飛ぶ」である。
鳥の体には飛ぶためのさまざまな工夫が見られる。(1)体の軽量化。(2)強力な飛翔筋とそれを支える骨格系。(3)効率の良い翼を形成する羽根(羽毛)。羽根はまた高空を高速で飛んでも体が冷えないよう、体温を高く一定に保つ役目もはたす。鳥の体温は40~42℃と哺乳類よりも高い。飛ばないダチョウの体温は哺乳類と同じであり、高い体温は飛行に必要な高い代謝率に寄与している。(4)高い代謝率を保てる効率の良い呼吸系。これにより飛翔筋への大量エネルギー供給が可能になっている。(同書P209より)
繰り返し出てくるコトバは「うまいことなっとるな!!」ばかりだった。
これぞ「進化」のなせるデザインなんだろうか。
この本を読んだ後、毎日見ている鳥たちの「動き」が気になってしかたない!!
鳥たちはやっぱり超すごい!!
▼最後のポイントにいこう。
(3)私の「動く」を科学してみたくなってきた!!
最初に述べた私の「動く」に関連して、とても興味をもった章があった。
それが、第4章「車輪」である。
「自転車」を褒めているのだった。
車輪の悪口を言ってきたのだが、こうして舗装道路を張り巡らしてしまったのだから、せめて排気ガスを出さない車輪を大いに使おうではないかという議論をしたい。
自転車を褒めたいのである。自転車はなんと言っても効率がいい。海から陸上に上がってしまつた動物では、一番力を使うのは体を持ち上げておくところ。歩行・走行の垂直成分(体を持ち上げる力)は水平方向(推力)の8倍。それほど体を持ち上げるのには力が要り、それにはエネルギーを使う。その分がないから自転車は楽に進めるのである。(同書P106より)
話は徹底していた!!
これがまた面白いのだが、このあと「自転車の歴史」へとつづくのだった。
そして、最後には著者の持論「自転車のすすめ」が登場するのだ。
それに対して機械を使っていると言っても、自転車は自分が汗を流して動かすものである。風を受け、景色を楽しみ、きょうも生きているなあと感じられ、乗ること自体を目的として楽しむことができる。自転車ならば通勤は活動的行為となり得る。
機械を使うとどうしても主役が機械になってしまう。それに対して自転車は機械というより、自分の手足の働きを助ける道具であり、主役は人間で、道具はアシスタント。現代の暮らしは過度に機械に頼り、機械に使われている感があるが、なるべく人を主役にして機械はそれをアシストするように使って、その分、機械のエネルギー消費量を減らすことを考えた方が良い。その観点からすると、自転車はまさに優等生であり、「アシスト自転車」という言葉は象徴的である。(同書P117より)
大賛成デアル!!
実は最初に言ったような事情で、自動車の利用がこれまでのようにいかなくなっていた。そこで、新しく「自転車」を購入していた。
この「自転車のすすめ」を読んで、もっとこの自転車を利用しようと思いだした。
えらく個人的な私の「動く」の話になってしまつたが。
「歩く」を含めて、私自身の「動く」を楽しく科学してみたい!!
最近のコメント