▼私のシロウト「クモ学」は、2013年7月に偶然にはじめてコガネグモの「狩り」を目撃したことにはじまる。急激に、「クモ」たちの「ふしぎ!?」に惹かれていった。
いちばんの「ふしぎ!?」は、ずっと身近に一緒に生きてきたはずなのに、なぜこんなすごい生きものの「ふしぎ!?」に気づかなかったということだろう。
待望の「クモはすごい」は、すでに書かれていた!!
それが、前回の【お薦め本】だった。
◆【お薦め本】『クモのイト』(中田兼介著 ミシマ社)
▼あまりに面白かったので、著者・中田兼介先生の「クモ学」の本をさがした。
あった!!
それが、またまた面白かった。
そこでつづけてになるが、次の本をぜひ【お薦め本】にあげたくなってきた。
◆【お薦め本】『まちぶせるクモ 網上の10秒間の攻防』(中田兼介著 コーディネーター辻 和希 共立出版 2017.3.15)
やはりお薦めポイント3つをあげる。
今回も面白く学ぶところが多すぎて3つはむつかしかったが、あえてこうした。
(1)焦点化することにより「クモ学」の面白さをより豊かに語ってくれている!!
(2)本格的科学研究のすすめ方のヒントがここにある!!
(3)これがプロの「クモ学」のすすめだ!!
▼ポイントをひとつずつ少しだけ詳しく
(1)焦点化することにより「クモ学」の面白さをより豊かに語ってくれている!!
まず、この本のタイトル・サブタイトルがとっても気に入っていた。
『まちぶせるクモ 網上の10秒間の攻防』
「10秒間の攻防」についてはこうだ。
10秒強ほどの時間で起きる。このクモとエサの攻防戦の舞台が、円網だ。そして本書は紙幅のほとんどを使ってこの10秒間を説明する1冊てある。(「はじめに」ⅶより)
事実「もくじ」は次のようになっていた。
1 まちぶせと網
2 仕掛ける
3 誘いこむ
4 止める
5 見つける
6 襲いかかる
次は「網上の」だ。
著者は「網」にこだわっていた。
クモが糸で建築する罠のことを「クモの巣」と呼ぶ人は多い。しかし、本来「巣」という言葉は、本来棲むところを指すものだ。確かにクモは自分の作った罠の上で暮らしている。だから、網のことを巣と呼んでも間違っているわけではない。しかし、網の最も大事な働きは、エサの動きを止め、クモが襲いかかるまで逃がさないよう、その場に留め置くことだ。こういう役割をもつ「巣」は、動物の世界では珍しく、特別な存在である。なので本書では、生物学者としての細部へのこだわりを発揮させてもらって、「クモの巣」の中で罠としての働きをもつものを「網」と呼ぶ。本書の中心テーマはこの「網」だ。(「はじめに」ⅴより)
いいですね!!
この「こだわり」に大賛成です。
まったくのシロウトの私も「巣」には抵抗があり、「ネット」(ときにWeb)というコトバをつかってきていた。
最後になってしまったが、メインタイトル「まちぶせるクモ」の「まちぶせ」である。
「まちぶせ」について、「おわりに」のなかでこう語っていた。少し長いが、あまりに面白いので…。
引っ込み思案なこともあって、待つことは習い性だ。子どもの頃は、家で友達が遊びに誘ってくるのを待っていることが多かった。生き物の生態や行動を調べるようになった今では、野外で動物が来るのを待ったり、実験条件が整うのを待ったりするのは日常茶飯事、待つのが苦にならないタイプでよかったとしばしば思う。
そんな私がアリの社会を扱った博士論文書き上げた後、次の面白い研究テーマを探してぶらぶらしているときにクモと出会ったのは、天の配剤だったのかも知れない。それから20年、勤め先を三度も変えながら、曲がりなりにもクモの研究を続けてこられたのは、罠を仕掛けて誘いこみ一気に動いてカタをつける、彼女たちのまちぶせの巧みさに魅了させられたからだろうか、いや、辛抱強く機を待ち続ける彼女らの姿に何かシンパシーのようなものを感じていたからかもしれない。(「おわりに」同書P122より)
こう言う著者のモノローグ風語りが大好きです!!
メチャクチャ納得である!!
これで、タイトル・サブタイトル『まちぶせるクモ 網の上の10秒間の攻防』のすべてが浮き彫りになってきた。
クモの世界をこのように焦点化することによって、その面白さをより豊かに語ってくれているように思った。
私が最初にコガネグモの「狩り」を目撃して、「クモ学」に惹かれていったわけもわかるように思えてきた。
(2)本格的科学研究のすすめ方のヒントがここにある!!
きっとこの本のメインは、ここにあるのだろう。
事実、この本を読み進めていくうちに、「さすがプロ!!」と驚き感動することが多かった。
「科学研究」とは、こんな手順で進めるものであるのかと目から鱗であった。
ナルホドと感心したところも多い。少しだけアトランダムにピックアップしてみる。
このことから、クモの網の作り方を理解するには、ただエサを獲ることだけ考えていればよいのでなく、彼らが網を使ってどのように環境を認識しているか、という視点も必要だといえる。動物の世界では、食べることと知ることは分かちがたいことなのかもしれない。(同書P28より)
実験には音叉を使った。ピアノの調律のときにカーンと鳴らす、U字型のあの道具だ。捕食者とは何の関係もなんの関係なさそうに思えるがさにあらず、造網性のクモは視覚が優れない代わりに振動には鋭敏に反応し、足場の揺れや、空中を伝わってくる揺れ(音のことだ)に対して優れた感覚をもつ(略)、そのため、音叉を鳴らして近づけてやると、クモは種によっていろいろの反応をしてくれる。自然観察会などで実演するのにちょうどよい題材である。(同書P38より)
やっぱりそうか!!ゲホウグモが早朝より暗闇で「店じまい」するのを観察したとき、たしかに私もそう思った。今度から、これを使わせてもらおう。
そこで私はあらためて先行研究を精査してみた。すると、実験的な手法を使って確実な得た研究では、おびき寄せ説を支持したり対捕食者説を否定するものに直線上の白帯をつける種を対象にしたものはほとんどなかったのだ(中田2015)、やはり白帯は、形によって違った役割をもっている。では、直線上の白帯はどんなメカニズムでクモの安全性を高めているのだろうか?この答えはまだわかっていないが、クモの上下に伸びる目立つ白帯が、クモのいる場所をわかりにくくさせている。というのが1つの可能性だ。(同書P46より)
「先行研究」の精査、仮説立て、可能性の追求!!
科学研究は、いつも直線的とはかぎらないんだ。それが醍醐味でもあるのだろう。
ここでも、やはり著者の魅力は等身大の語り口調だった。
クモの行動の研究というのはおよそ世間の役には立たないものだ。そんなわけで、私の研究生活は、あふれる予算とは無縁である。役に立つ学問分野のようにはいかない。そんな私の支えがホームセンター、安価な家庭用グッズをどうやって実験・調査に利用するか考えながら、消費文明の権化ともいえる商品棚の間を歩き回る至福の時だ。たとえば、私は小さなクモを生きたまま手術することがあるのだが、そのときに使う保定用具は…(同書P61より)
およそ生き物が秩序立ったことをしているとき、どんなささやかなことに見えても、そこには何か意味があるはずだ。一方、クモが網を引っ張っているという話は、何かで読んだこともなければ、誰かからも聞いたこともなかった。ということは、ひょっとして私はまだ世界で誰も気づいていないような新しい現象を発見したのだろうか?ひゃっほう?!(同書P73より)
こんなの読んでいると、こちらまでうれしくなってきますね!!
ますます著者の大ファンになってしまいますね。
いやいや、まだまだこんなものではなかった!!
いやしかし落ち着け、クモが網を引っ張っていることにこれまで誰も言及していないのには、まったく別の可能性もある。重要な生物学的意味がないので、わざわざ記述するまでもない。という可能性だ。このがっかりするようなシナリオを潰すためには、現象をみつけて喜んでいるだけではダメだ。その役割をちゃんと明らかにしなければ。(同書P74より)
このあとのみごとな論理展開!!
クモたちにまけない持続的「まちぶせ研究」!!
ポンコツ頭の私には、すぐには理解できぬほどのするどい「クモ学」研究!!
「クモ学」は総合科学研究だ。
最後に著者が「おわりに」の末尾に書かれた文章を引用させてもらおう。
こういうスタイルは、生物学の教科書を書き換えるような大発見にはつながらないかもしれない。私が、ギンメッキで見つけたことも、また射程が広くないからだ。しかし、よく考えてみれば、私は元々、大きな発見をしてやろうとかの野心を持ち合わせてこの業界に入ったわけではない。ただ自分と違う他者のことを理解したいと思うだけだ。だから別に教科書を書き換えられなくったって、一向に構わない。個々の生き物の理屈がわかるようになる。これこそが、生物を対象にした学問の醍醐味だろう。そう思って、私は明日も網の前に座って、何か面白いことは起きないかな、と待ち続けるのである。(同書P124より)
この本は、本格的に科学研究をすすめるヒントをくれるだけでなく、研究のモチベーションをうんと高めてくれるのである。
▼最後のお薦めポイントに行こう。
(3)これがプロの「クモ学」のすすめだ!!
このポイントを、コーディネーター役の辻和希さんが「アマチュア研究家に薦めたいクモの行動生態学へのガイド」なかでうまく語っておられた。
小中高校の理科の先生には、本書をぜひ読んでもらいたい。クモのようなそこかしこにいる小さな生き物を、ホームセンターで買える程度の簡単な道具を使い、知恵を絞って実験や観察をすることで、先端科学的な研究ができるというのは、教育現場において魅力的でないだろうか。本書は小中高校の教育現場で、たとえば夏休みの自由研究やスーパーサイエンスハイスクールでの生徒の研究などのよい参考教材になると思う。(同書P132より)
まったくの同感である!!
そして、なにより、これからの私のシロウト「クモ学」の最高の参考文献になることはまちがいなかった!!
さあ、今年はどんなクモの「ふしぎ!?」との出会いがあるのかな!?
楽しみだ!!
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