本日(2023/11/28)、第364回オンライン「寅の日」!! #物理学実験の教授について #理科教育 #traday #寺田寅彦
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驚いて見ていると、それから十余間(けん)を隔てた小さな銀杏(いちょう)も同様に落葉を始めた、まるで申し合わせたように濃密な黄金色の雪を降らせるのであった。不思議なことには、ほとんど風というほどの風もない、というのは落ちる葉の流れがほとんど垂直に近く落下して樹枝の間をくぐりくぐり脚下に落ちかかっていることで明白であった。なんだか少し物すごいような気持ちがした。何かしら目に見えぬ怪物が木々を揺さぶりでもしているか、あるいはどこかでスウィッチを切って電磁石から鉄製の黄葉をいっせいに落下させたとでもいったような感じがするのであった。
あの有名な「藤の実」(青空文庫より)の一節である。
この「瞬間」の景に出会いたくて、身近な銀杏の樹の観察をつづけている。
▼本日(2023/11/28)は、第364回オンライン「寅の日」である。
11月テーマは、【理科の部屋】の誕生月であることを記念して
【11月テーマ】「寅彦と理科教育」
としている。その3回目の本日は「物理学実験の教授について」を読む。
◆本日(2023/11/28)、第364回オンライン「寅の日」!!
▼たいへん興味深い提言からはじまった。
単に教科書の講義を授くるのみならず、生徒自身に各種の実験を行わせる事になり、このために若干の補助費を支出する事になった。これは非常によい企てである。どうかこのせっかくの企てを出来るだけ有効に遂行したいものである。
これは大正7年(1918)に書かれたものである。
1918年が気になっていた!!
『増補 日本理科教育史 付・年表』(板倉聖宣著 仮説社)の「年表」から1918年の一部を引用させてもらおう。
●1918年1月19日 理科教育研究会 東京帝国大学で発会式(会長 林博太郎)
●1918年2月5日 文部省、師範学校・中学校の物理・化学に生徒実験を課すことを定め、「物理及化学生徒実験要目」を訓令。生徒実験設備費として臨時補助金20万円余を国庫支出。
●1918年4月△日 理科教育研究会『理科教育』創刊
「日本理科教育史」を語るうえで忘れることのできない年であることは確かだ。
元にもどう。こうつづける。
云うまでもなく、物理学で出逢う種々の方則等はある意味で非常に抽象的なものであって、吾人の眼前にある具体的な、ありのままの自然そのものに直接そっくり当て嵌(は)められるようなものはほとんどないとも云われる。「AがあればBが生ずる」というような簡単な言葉で云い表わしてある方則には、通例「ただAだけがあってその他の因子A'の図A''の図……等がないならば」という意味を含めてある。
眼前の自然は教科書の自然のように注文通りになっていてくれぬから難儀である。
▼話はより具体的に及んでいく。
ビーカーに水を汲むのでも、マッチ一本するのでも、一見つまらぬようなことも自分でやって、そしてそういうことにまでも観察力判断力を働かすのでなければ効能は少ない。
先生の方で全部装置をしてやって、生徒はただ先生の注意する結果だけに注意しそれ以外にどんな現象があっても黙っているようなやり方では、効力が少ないのみならず、むしろ有害になる虞(おそれ)がある。御膳を出してやって、その上に箸で口へ持ち込んでやって丸呑みにさせるという風な育て方よりも、生徒自身に箸をとってよく選り分け、よく味わい、よく咀嚼(そしゃく)させる方がよい。
さらには示唆的が文章がつづく。
数十種の実験を皮相的申訳的にやってしまうよりも、少数の実験でも出来るだけ徹底的に練習し、出来るだけあらゆる可能な困難に当ってみて、必成の途を明らかにするように勉つとめる方が遥かに永久的の効果があり、本当の科学的の研究方法を覚える助けになるかと思う。実験を授ける効果はただ若干の事実をよく理解し記憶させるというだけではなく、これによって生徒の自発的研究心を喚起し、観察力を練り、また困難に遭遇してもひるまずこれに打勝つ忍耐の習慣も養い、困難に打勝った時の愉快をも味わわしめる事が出来る。その外観察の結果を整理する技倆も養い、正直に事実を記録する癖をつける事やこのような一般的の効果がなかなか重要なものであろう。
物理実験を生徒に示すのは手品を見せるのではない。手際(てぎわ)よくやって驚かす性質のものではなく、むしろ如何にすれば成功し如何にすれば失敗するかを明らかにする方に効果がある。それがためには教師はむしろ出来るだけ多く失敗して、最後に成効して見せる方が教授法として適当であるかと思う。
もともと実験の教授というものは、軍隊の教練や昔の漢学者の経書の講義などのように高圧的にするべきものではなく、教員はただ生徒の主動的経験を適当に指導し、あるいは生徒と共同して新しい経験をするような心算(つもり)ですべきものと思う。
この場合に結果を都合のよいようにこじつけたり、あるいは有耶無耶(うやむや)のうちに葬ったり、あるいは予期以外の結果を故意に回避したりするような傾向があってはならぬ。却って意外な結果や現象に対しては十分な興味をもってまともに立向かい、判らぬ事は判らぬとして出来る限りの熱心と努力をもってその解決に勉めなければなるまい。
時代背景も考慮しておくことは確かに大切なことである!!
100年の時空を超えて響いてくるものがあるのは寅彦の凄さだ!!
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