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【お薦め本】『季語の科学』(尾池 和夫著 淡交社)

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▼しばらく「つん読」にしておいた本をこの正月にひっぱりだしてきた。
 著者の名前になつかしい思い出があった。
 山崎断層地震(1984.05.30)のすぐ後ではなかったと記憶している。だから、それは40年近く前のことになるのかもれない。場所に定かな記憶もなくなっていた。
 ただ、講演の冒頭だけは鮮明に憶えていた。
 「私が、小池(尾池にひっかけて)の鯰(なまず)です!!」
 (このときは地震と鯰の関係はうっすらとした認識しかなかった)
 尾池先生の名前を聞くと、今でもこのフレーズを思い出すのである。
 だから、私には俳人「尾池和夫」より先に地震学者・地球科学者「尾池和夫」が先行するのである。
 
▼正月から読み始めた俳人「尾池和夫」先生の本があまりに面白かったので、今年最初の【お薦め本】にあげてみることにした。

◆【お薦め本】『季語の科学』(尾池 和夫著 淡交社 2021.3.6)

 例によって、話が拡散してしまわないうちにお薦めポイント3つを先に挙げておく。

(1)「季節のことば を科学する」から学ぶのに最適の書!!
(2)俳句を読むあるいは俳句を詠むための最高の参考書!!
(3)自分が暮らす地域や専門と季語との関連を考えるための書!!

▼では少しだけ詳細に書いてみる。

(1)「季節のことば を科学する」から学ぶのに最適の書!!
 【お薦め本】にしたいと思うのに決め手となったフレーズがあった。
それは、「季節のことばを科学する」である。
 昨年から少し「○○を科学する」というコトバにはまっていた。一番最近では、「「原子論」を科学する」で、それは今なお継続中である。さて、次はどんな「○○を科学する」にするか迷っているところだった。
 コレだ!!と思った。それはなんとこの書の「あとがき」にあった。

 『淡交』の二〇二〇年七月号から一二月号まで、六回にわたって「季節のことばを科学する」というシリーズを掲載していただいた。その内容の一部もこの本に再録した。『淡交』は、裏千家茶道の機関誌であり、茶の湯を中心とする日本文化を総合的に紹介する月刊茶道誌である。その読者からも「季節のことばを科学する」はたいへん好評で、このことが、茶の湯と季語の出会いの意味を考える機会となった。(同書P278 より)
 「季節のことば=季語」を科学するという姿勢は、みごとに徹底していた。そのことにいたく感動するのだった。
 手持ちの「歳時記」(『俳句歳時記 第四版』(角川学芸出版編))と読み比べながら読んでみると、「科学する」の徹底ぶりが実に面白かった。

(2)俳句を読むあるいは俳句を詠むための最高の参考書!!
 ちょっと 後先が逆になってしまったが、「はじめに」著者はいきなり次のように言い切っていた!!

 季語がおもしろいと思っている方に読んでいただきたいと、この本を書いた。この本は季語を批判するものでない。季語を知って俳句を読む、あるいは俳句を詠むためのための本である。(同書P6 より)

 なんとみごとな言い切りだろう!!ここまで言い切られるとスッキリしていていい。さらには、次のように言っていた。
 片山由美子は『季語を知る』(角川選書、二〇一九年)で、「季語は意味ではなく言葉である」と述べ、「歳時記の矛盾や季節のずれ指摘しようとすればいくらでもできるが、合理性が最優先される世界ではない。現実とのずれを承知の上で、むしろ楽しむゆとりがほしい。南北に長い日本列島の季節の違いは誰もが承知しており、いっせいに春になるはずはないのである。むしろ文学上の共通の時間を持つために、歳時記があると思えば、よいのではないだろうか」と言う。(同書P6 より)

読み始めたのが、お正月ということで、本の最後の「歳の暮れ・新年」から見ていった。「季語」を「科学する」視点にたった読み解きが実に面白い。
 一例をあげてみる。
「春」の章から【立春】をあげてみる。ところどころの部分の引用で失礼ではあるが、

 【立春】<春立つ・春来・立春大吉>初春 時候

 二十四節気の最初が立春である。節気には三つの意味がある。天文学で定義された時刻としての節気は一瞬である。暦ではその瞬間を含む日をさしたり、次の節気(立春なら雨水)の前日までの期間をさす。立春から立夏の前日までが春で、寒さの頂点を過ぎた立春から、時候の挨拶に「余寒」を使う。

 ……(中略)
 一九四七年、ニューヨークと上海と東京で、大がかりな実験が行われた。そのことは、中谷宇吉郎『立春の卵』にくわしい。この場合の立春は、場所によって異なった時刻であり、その時、中国の古書にある通り、実際に卵が立ったという記事が新聞に載った。

 ……(中略)
(「朔旦立春」について)次の機会は二〇三八年、南海トラフの巨大地震が起こる時期と予測された年にあたっている。((同書P14-15 より))


 全文はぜひ手にとって読んでみてください。「ヘェー、そこまで言うの!?」と面白いです!!


▼最後のお薦めポイントにいこう。
(3)自分が暮らす地域や専門と季語との関連を考えるための書!!
 再び「はじめに」もどろう。

 地球科学を専門とする私は、かつて「天地人研究会」と「ジオ多様性研究会」を主宰し、広い分野の専門家を集めて議論を繰り返した。互いの専門領域の話を理解しながら議論を深めることで、新しい研究分野を展開していこうという趣旨であり、また、日本列島の大きな特徴である、地形や地質の細かい分布による多様性を分析して、そこから浮かび上がる日本の文化の特徴を知ることを目的とした。(同書P7 より)

 まさに、地球学者・尾池和夫先生の本領発揮である。
 こだわりのあったのは、専門分野だけでなかった。
 全編通じて、地域「京都」へのこだわりも強いと思った。

 これもまた一例だけでも

 【鯰】<梅雨鯰・ごみ鯰> 仲夏 動物
 …(略)
 この頃ちょうど、一六〇五(慶長一〇)年の南海トラフの巨大地震に先行する西日本は内陸地震の活動期であった。この秀吉による指月伏見城の天守も、一五九六年の有馬ー高槻構造線活断層に発生した大地震で倒壊し、多数の死者を出すこととなった。(同書P117 より)

これら地域・専門への「こだわり」を見せた「歳時記」はこの本の大きな特徴ありとっても面白いと思えてきた!!
 
その点から言えばもっともっと多様な「歳時記」があってもいいな!!
もっと言えば、私だけの「歳時記」があってもいいな!!

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