【お薦め本】『三つの石で地球がわかる』(藤岡換太郎著 講談社 ブルーバックス)

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▼ポンコツ度がますます加速してきた。
 同時にいくつかのことを考えることができない。
 けっこう「三つ」にこだわていた。
 木村学氏は『地質学の自然観』のなかの「これから論文を書こうとする若い読者のために」で次のようにのべていた。

 私は多くても論点は三つまでと決めています。
  なぜなら、これもまた読者の立場に立ってみましょう。三つ以上は多すぎる、と思うからです。人間の記憶能力のキャパシティーで、すとんと腑に落ちるのはせいぜい三つまででしょう。また、だらだらと並べるとインパクトが下がります。プライオリティーの低い論点は、重要な三つに比べて、明らかに比重を下げて一括するなどの書き方が必要と思います。(同書 P224より)

 私のようなポンコツにもずいぶん示唆的です。
 
▼その「三つ」にこだわった本に出会った。
 その本のタイトルからして、とても気に入った!!
 【お薦め本】にあげることにした。

 ◆【お薦め本】『三つの石で地球がわかる』(藤岡換太郎著 講談社 ブルーバックス 22017.5.20)

こちらの方も「三つ」にこだわってみよう。
 【お薦め】ポイントをさきに「三つ」あげてみる。

(1)石の科学を単純化することで、使える科学にしてくれている。
(2)中学理科の根拠を再確認できる。
(3)プレートテクトニクスを学ぶ基礎知識を教えてくれている。

▼ではひとつずつ行こう。
(1)石の科学を単純化することで、使える科学にしてくれている。
 えっ!?
 ほんとうに「三つ」でいいの? 正直に言うと最初は半信半疑だった。
 それを見透かしたように、著者は「まえがき」のなかで強く言い切っていた。

 この本は、そういう不満に応えるために書きました。石の名前は、いくつも覚える必要はありません。基本的には、たった三つ、覚えるだけでいいのです。
 三つの石を覚えるだけで、石というものの本質がわかります。たくさんあるほかの石のことも体系的に頭に入ります。さらには、石がどう進化したかがわかります。生きもののように石も長い年月かけて進化しているのです。
 そして、石の進化とはすなわち、石によってできている地球の進化でもあります。
地球が現在の姿になるまでに進化してきた歴史は、三つの石の物語でできているのです。(同書P4より)

 さて、みなさんはこう言われて「三つ石」は何かわかりますか!?
 本文を読む前に私は<予想>してみました。 
 「二つ」まで当たりました!!
 もう「一つ」だけはわかりませんでした。少しだけ余談になりますが、偶然先日訪ねて行った「新温泉町・山陰海岸ジオパーク館」で、この石の<ホンモノ>と出会いました。
 <ホンモノ>を見た後に、もういちどこの本の説明を読んでみました。
 ナルホド!! 
 です。
 「三つ石」それぞれに一つの章を設けてくわしく基本から説明されています。

(2)中学理科の根拠を再確認できる。
 わかっているつもりで教えてきた「中学校理科」の石の知識を、あらためて「科学する」ことができました。具体的に語ってくれているのもアリガタイ!!

 私が理科の先生だったら、やはりカレー鍋のたとえを持ち出すでしょう。第2章でも玄武岩をいろいろの「具材」が溶け込んだカレーに見立て、それが冷えるとさまざまな具材が結晶になって出ていくために、カレーがさまざまに変化するという話をしました。
 そのときは個々の具材、つまり造岩鉱物の名前は出しませんでしたが、あらためて中学校の授業として考えると、造岩鉱物の名前もあげて、マグマの結晶分化について説明したいと思います。そこで、以下は、その考えに沿って話を進めていきます。(同書P157より)
 
アリガタイ!!
 授業づくりの参考になることはまちがいない。
 あえて専門家としての苦言を呈してくれているのもアリガタイ!!
 教科書に書かれていることを絶体的なものであると教える側が鵜呑みにして、それを丸暗記させるようなことだけは、説対にしてほしくないと思います。(同書P162より)

▼では最後のお薦めポイントにいきます。
(3)プレートテクトニクスを学ぶ基礎知識を教えてくれている。
 実はこの本のサブタイトルは
 「岩石がひもとくこの星のなりたち」
 となっています。
 そうです、「三つの石」に徹底してこだわりぬくことによって、ドラスティクな「地球進化」の物語を語ってくれているのです。

 三つの石によって、地球にはほかの惑星にはない特徴ができあがりました。まず層構造が生まれ、プレートがつくられ、プレートテクトニクスが起きて、水が大循環して地球内部へと運ばれるようになりました。水は生命をつくる一方で、地下深くに運ばれることによって島弧をつくり、島弧が衝突・集積することで大陸が誕生しました。私たち人間を含めた、多くの地球生命が住める場所ができたのです。三つの石が地球を特別な星へと進化させたのです。(同書P190より)

 面白いです!!
 「三つ」へのこだわりのおかげで、ポンコツ頭も「整理」しながら読むことができました。

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【お薦め本】『プレートテクトニクスの拒絶と受容』(泊 次郎著 東京大学出版会)

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▼今、私は「科学する」シリーズのひとつとして、「動く大地」を科学する という取り組みをやっている。
  実に遅々たる歩みである。
 「こんなことならもう少し勉強しとくんだった。」と思うことも屡々である。
 自分が暮らす大地のことを中心にしてやっていきたいと願っている。
 やっぱりつまずいてしまうのは、地質時代の「時間のスケール」の問題だ。
 なかなかポンコツ頭に定着しない。
 それからもうひとつ大問題があった。
 「プレートテクトニクス」である。興味はもちつつも、いつも生半可な理解でやりすごしてきた。
 今や「常識」のようにして、TV・新聞・雑誌等で扱われる「科学」!!
 私の頭にアタリマエとして定着してこなかったのはなぜなんだろう!?
 私の不勉強だけなんだろうか!?

▼その問いに応えてくれる本があった。
それが今回の【お薦め本】である。

◆【お薦め本】『プレートテクトニクスの拒絶と受容』(泊 次郎著 東京大学出版会 2008.6.2)

 いつものようにお薦めポイント3つをあげておこう。

(1)「プレートテクトニクス」の科学史の全容がわかる。
(2)ダイナミックな科学史の面白さを教えてくれる。
(3)「動く大地」の謎を解くための有効な「科学」を教えてくれている。

▼それでは少しだけ詳しく
(1)「プレートテクトニクス」の科学史の全容がわかる。
 ほぼ最後になる7章はこのようにはじまる。

 日本の地質学会でPTが受容されたのは、日本列島の地質の大部分が、海溝付近にたまった堆積物が、海洋プレートの沈み込みに伴ってはぎ取られ、陸側のプレートに付け加わった付加体と呼ばれる一連の地層(地質体)で構成されている。とい認識が広がった時期とほとんど一致する。本章では海外で付加体の概念が生まれ、それが日本列島に適用されて、「日本列島=付加体」説がつくられて、それが受容されるまでの歴史を紹介する。(同書P198より)

 この歴史が知りたかった。
それが、この本を読み始めた理由でもあった。
この本のサブタイトルは「戦後日本の地球科学史」である。
この本を読みながら、いつしか自分が中学校で理科の授業をやってきた「歴史」を重ねて思いだしていた。
 「プレートテクトニクス」については、「地震はどのようにして」「大地の歴史」などで<科学読み物>としてふれる程度で、「日本列島=付加体」説まで深く踏み込んで授業をしたことがなかった。
 こんな面白いことを!!
 最後についている年表は自分の頭の整理にとても役に立つ。
◆プレートテクトニクス関連年表(1912-1993年)(同書P247より)   

(2)ダイナミックな科学史の面白さを教えてくれる。
 「原子論的物質観」はすべてのモノの見え方を変えてしまった。
 「原子」の眼でみることにより、物質変化の謎の多くは読み解けた。
 「プレートテクトニクス」の場合はどうだろう。
 日々暮らす大地の「ふしぎ!?」に答えてくれるだろうか。
 この研究史・科学史も、またドラスティクな展開の連続であった。
 仮説を立て、それを裏付ける「事実」をフィールドで地道に探し出し発表する。
 「まちがい」も当然ある。
 それからの軌道修正、そしてあらたな仮説!!
 紆余曲折の歴史、そのプロセスも大切である。
 そのことの「記録」も大事な未来への私たちの貴重な「財産」である。
 著者の「あとがき」の最後の最後に書かれたコトバが印象深かった。

本書はもちろん、ひとつの解釈、ひとつの歴史記述にすぎません。さらに説得力を持った新しい研究が現れることを期待して、筆をおきます。
 2008年3月  (同書P246より) 

▼最後に行きます。
(3)「動く大地」の謎を解くための有効な「科学」を教えてくれている
 いつもいくらかはそういうところがあるのですが、今回は特にそう感じます。
 3つ目のお薦めポイントは蛇足的です。繰り返しです!!
 それは、本の内容をよく理解できていないことに起因していると思います。
 勉強不足です。
わかることで、自分の課題に引き寄せて書きます。
 最初に書いたように、私は今、自分の暮らす「大地」を中心とした「動く大地」を科学したいと思っています。
 そのとき有効な「科学」がどのようにして生まれたか、また今どこにあるかを教えてくれているのです。
  
・1912年 Wegener 大陸移動説を発表
から たった112年!! そして今 !?

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【お薦め本】『日本列島の生い立ちを読む』(斎藤靖二著 岩波書店)

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▼「動く大地」を科学する のシリーズはまだまだ続けるつもりだ。
 とは言っても、ついつい暗礁にのりあげてしまう。
 「次にどこに行って、何を!?」
 が見えなくなってしまうのである。
 「これなら、もっとちゃんと勉強しとくんだった」と悔やんでみてもしかたない。
 しかし、これを途中断念する気にはなれない。
 こんなとき、シロウトの私にピッタリとくる参考文献はないものだろうか。
 捜していた。
 そして、本棚のスミでこの本みつけた。
 
▼読んだことがあるようだ。
 マーカーでチェックしたところがあるので、しかし 忘れてしまっていた。
 あらためて読んでみて、ぜひとも【お薦め本】にあげたくなってきた。


◆【お薦め本】『日本列島の生い立ちを読む』(斎藤靖二著 岩波書店 2007.8.8)

 
 例によって、3つの【お薦めポイント】をあげておく。

(1)地質学の基本の「き」から語ってくれている!!
(2)あらたな「知見」で、日本列島の歴史をより面白く語っている!!
(3)地域のフィールドワークに誘ってくれている!! 

▼では少しだけくわしく
(1)地質学の基本の「き」から語ってくれている!!
 いつまでたってもシロウトの私には、「はじめに」の巻頭のコトバが妙にうれしかった。

「地質はどうもわかりません」と、これまでつきあってきた多くの方からいわれてきました。もちろん地質を専門にしていない方達からです。これにはどうやら二つの異なった意味あいがあるようです。ひとつは、野外で崖に露出している地層や岩石を見たときに、何をどのように観察するのか、あるいはどのように考えるのかがわからないというもので、岩石や化石などの知識が増えると解決する問題です。もうひとつは困ったことに解決しにくい問題で、地質をやっている人(地質屋と呼ばれたりします)にしかわからない用語と理屈が多くて、地質の話を理解することができないというものでした。(同書 「はじめに」ⅴ より)

 自分の不勉強を棚に上げてですが、まったく同感でした。
 この一文により、私はこの本をぜひとも【お薦め本】にあげたくなったと言っても過言ではありません。
 この本全体を通して、最初の「地質はどうもわかりません」に応えようとしてくれているように思えた。
 私のようなやっかいなシロウトには、「今さら人には聞けない」蓄積された「ふしぎ!?」がいくつもあった。
 そのことについて、とてもわかりやすく基本の「き」から語ってくれていた。 
 例えばこうである。
 当時の地質学のデータはほとんどヨーロッパに限られていたので、地質時代の名称にはヨーロッパの地名や部族名が用いられています。古生代のカンブリア、オルドビス、シルル、デホンといった名称はイギリスのウェールズ地方の地名や部族名で、石炭紀はイギリスの夾炭層に由来しています。二畳紀はドイツの二枚重ねの地層ダイアスからきたものですが、同時代の海成層に用いられるペルム紀はウラル山麓の地名に由来するものです。中生代の三畳紀はドイツの大きく三つに重なってみえる地層から、ジュラ紀はフランスとスイスの国境ジュラ山脈からとられたものです。白亜紀は、チョークのラテン語であるクレタにもとづくものですが、ヨーロッパではチョーク層がこの時代代表する地層だからです。新生代の第三紀はイタリアで、第四紀はフランスでよく研究されました。いずれも、その時代の地層を最もよく観察できる地域を中心に地層の順番が調べられ、その中の化石内容がその時代を代表するものとして研究されたのです。(同書P16より)

 知ってしまえばなんということのないことかも知れませんが、なんだそうだったのか!!
とうれしい気分になったりするんですよね。
 今やごくごくアタリマエに語られる「付加体」ですが、やっぱりシロウトはそのアタリマエを、繰り返して聞きたいものなんです。
 移動する海洋プレートが、チャートや枕状溶岩を海溝まで運んできたのでしょう。そして、プレートが地球内部に沈み込んでいくときに、一部がはぎ取られ、そこに堆積していた砂泥互層とともに陸側に押しつけられのでしょう。このようにして陸側に付け加えられたものを、「付加体」いいますが、四万十帯の謎は、それを付加体とみることでみごとに解けてしまったのです。(同書P87より)
 

(2)あらたな「知見」で、日本列島の歴史をより面白く語っている!!
「付加体」「プレートテクトニクス」などは、今となっては、あらたな「知見」というよりはアタリマエすぎるほどアタリマエの「科学」なのかも知れない。
 それでも骨董ボンコツ頭の私にはやっぱり新鮮だ!!

 ところがいまでは逆に地層としてはめちゃくちゃなもののほうが、非常に面白くなりました。プレート・テクトニクスという観点から新しく見直すことができるようになり、微化石や放射年代を利用して、複雑な地質体でも解析する手法が確立されたからです。日本列島には、新しい眼で見直して労力を払えば、驚くような発見を秘めている岩石や地層がまだまだありそうです。そんなに大げさな発見でなくても、たとえば礁性石灰岩を見て、それが遠い熱帯の海域からここまで、長い時間をかけて移動してきたのだと理解することができれば、だれでもある種の感動をもつことができます。
 みなさんも、野外に行ったときにはぜひ崖を観察してください。崖にはその土地の成り立ちだけでなく、日本列島の生い立ちとか、地球の動きまで記録されています。(同書P146 より)

 そう言われると、やっぱりその「記録」を読み解きたくなってきますよね。
 
▼そして、最後のお薦めポイントに行きます。
(3)地域のフィールドワークに誘ってくれている!! 
ここが本命です。
 裏山の崖とか、橋の下の崖といった身近なところに、自然の秘密、それも地球の大きな営みが隠されています。どんな地層や岩石がでていても、そこには地表環境の変遷、マグマの活動、あるいは地下での変成作用が記録されています。丹念に観察していくと、氷期・間氷期のリズムや、海洋底が拡大し移動する、そして海洋プレートが沈み込む、大陸地塊も移動し、ついには衝突して山脈を形成する、地球の大きな動きが見えてくるのです。 地層に直接手を触れみると、もっと地球の動きを実感できることでしょう。(同書P146より)
    
 うれしいことに、自分の暮らす地域のフィールドワークに誘ってくれているのです。
 具体的な各地域での実践研究例が、豊富な資料とわかりやすい図で語られいます。

 気になるところを繰り返し読み返しながら、「動く大地」を科学する を続けて行きたいと思っています。

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【お薦め本】『変動する日本列島』(藤田和夫著 岩波新書)

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▼これまでに、今年になって10冊の【お薦め本】をあげてきました。
 それらは、自分なりに読んでみて、面白いと感じたことを中心にお薦めポイントをあげて来ましたが、今回はすこしちがうことをねらってこれを書いてみることにします。
 
▼あげるのは、ほぼ40年前に出された新書本です。

◆【お薦め本】『変動する日本列島』(藤田和夫著 岩波新書 1985.6.20)

 ひょっとしたら、多くのひとの本棚のすみに眠っているかも知れません。
 調べてみたら、今も古書店で安価に入手可能でもあるようです。
 手許になければ、この際入手をお薦めします。 
 
 今回はちがうと言っておきながら
 いつものように無理やり、お薦めポイント3つあげれば次のようになります。
 今回の私のほんとうの「ねらい」は(3)にあります。

(1)私の「動く大地」の物語の「原点」がここにある。
(2)「動く大地」を科学する を進めるためのヒントを与えてくれる。
(3)この本の「その後」が知りたい。

▼では少しだけくわしく行きましょう。
 
(1)私の「動く大地」の物語の「原点」がここにある。
 私の拙い「授業」の取り組みの一端はここに記録していた。

◆【大地の動きをさぐる】実践DB目次
~大地の動きを「現在進行形」でとらえよう~

初期のプラン・授業実践を見れば一目瞭然だった。
 ・近畿トライアングル(同書P7~等他所で)
 ・「山崎断層」地震 (同書P67~74)等など
 この本の影響をもろにうけていた。
 今読み返してみても「原点」はここにあったのかと納得するばかりである。
 なにしろこの本は、著者が提唱した「近畿トライアングル」からはじまっていた。
 また、1995年1.17の兵庫県南部地震の後、いちはやく
【理科の部屋】オンライン学習会第2期(1995.4~1995.10)のテキスト
 としてとりあげたのもこの本であった!!
私の「動く大地」の物語の「原点」がここにあると思わせてくれるのである。

 
(2)「動く大地」を科学する を進めるためのヒントを与えてくれる。
 私は、今 自分の暮らす地域(大地)を舞台にした「動く大地」の物語を描きたいと思っている。
 もっと言えば、今、視界の中にある「あの山」「あの川」「その坂道」「その風景」の物語を知りたいと思っていた。
 その点、著者は西日本を中心した「日本列島」の変動を語っておられる。
 これはアリガタイ!!
 比較的見慣れた「風景」の物語になっているのは、「これから」にも多くのヒントがもらえる。

▼さあ、これを書いているほんとうの「ねらい」ところに行こう。
(3)この本の「その後」が知りたい。
 この本の最終章「日本山脈」の最後をつぎのようにしめくくっていた。

 第四紀地殻変動の産物である日本列島は、その箱庭的自然の美しさと同時に、その背後にもろさを秘めている。自然は、短期間をとれば静止しているようにもみえるけれども、数十年、数百年、数千年の単位でカタストロフィックな変化をともないながら動いている。そして数万年、数十万年単位では、より大きな変動をしてきたのである。これが自然のむしろ正常な動きであることを知り、その様相を正しく理解しながら列島の開発をはかる智恵を、われわれは持たなければならない。(同書 P226より)

 こう書かれてほぼ40年である。
 その後、この本に書かれていた内容について、さらにあらたな知見が加わったということはあるのだろうか。
 この分野に疎い私はよく知らないが、この本の後を受けるような本はでてきたのだろうか。 シロウトの私にもよくわかるこの本の続編のようなものはないのだろうか。
 教えてください!!
 これが、今回の【お薦め本】のほんとうのねらいです。
 あなたの【お薦め本】を教えてください。
 よろしくお願いします。

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【お薦め本】『最高にすごすぎる 天気の図鑑』(荒木健太郎著 KADOKAWA)

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▼毎日の「雲見」は、私の究極の道楽である!!
 「大気の物理学」実験室に暮らす私たちにとっては、「科学する」の第一歩に位置づけたい自然観察だった。
特別の用具も必要としない。
 まずは、空を見上げることからはじめたい。
 より豊かに楽しむためには、その道のプロたち話を聞いてみることだ。
 そんなときとても参考になる本がまた出た。

▼こんなとき「すごすぎる天気の図鑑」シリーズは、お薦めだ!!
 その最新刊が、今回の【お薦め本】だ。

◆【お薦め本】『最高にすごすぎる 天気の図鑑』(荒木健太郎著 KADOKAWA 2024.4.2)

「最高に」とついているだけにますますパワーアップしていた。
  お薦めポイントは3つ
(1)家でもできる楽しい「大気の物理学」実験がいっぱい紹介してある!!
(2)『枕草子』から「気象情報最前線」まで楽しくわかりやすく解説されている!!
(3)解説動画で、楽しく個人レクチャーを受けることができる!!
 
▼それでは、少しだけ詳しく
(1)家でもできる楽しい「大気の物理学」実験がいっぱい紹介してある!!
 最初にも書いたように、私たちは「大気の物理学」実験室のなかに暮らしている。
だから、雲をはじめとする日々目にしている気象現象は、すべて「大気の物理学」実験の結果である、とも言える。
 私たちは、日替わりメニュー(刻々替わりメニューと言った方がいいかも)の実験結果を見ているわけだ。
 その「実験」を、自分の手で意図的に試みてみることは、「科学する」ことであり、気象現象をより深く理解することにつながるだろう。
 この本には、家庭でもできる楽しい実験がいっぱい紹介してあった。
 著者は、この楽しい実験について、次のように語っていた。

 「百聞は一見に如かず」という言葉があるように、本を読んで知識を深めるのももちろん大事なのですが、実験や観察でそれを体験すると、楽しく学べて理解も深まります。虹ができる場所を狙って霧吹きで水をまけばちゃんと虹が現れますし、雲をつくる実験も友達や大人と一緒にやるとテンションが上がります。そうして楽しみながら学ぶという体験は、このあとの人生をきっと豊かにしてくれます。 
 実験は最強の遊びであり、学びなのです。雲も空も人生も、思いっきり楽しみましょう!(同書P50より)

(2)『枕草子』から「気象情報最前線」まで楽しくわかりやすく解説されている!!
「なぜ楽しくわかりやすいのだろう!?」
 これまで著者の本を読ませてもらっていて、よく抱いた疑問だった。
その自分なりの「答え」をいくつかを持っていた。(あくまで私の場合)
・初学者向けにわかりやすくていねいに書いてある。
 いつまでも、どこまでもシロウトの私にはアリガタイ!!
 難しい気象用語にも、すべてに「ふりがな」がうってあるからうれしい!!
・パーセルくんをはじめ新キャラクターも加わり楽しく解説してある。
 見えない大気の運動を、パーセルくんたちが「見える化」してくれている。
 キャラクターはかわいいだけでなく科学的意味をもつ!! 
 著者の自作キャラクターだけに個性的であり、説得力をもつ。
・著者自身が気象情報最前線で活躍するホンモノの「研究者」である。
 「天気」の現場のホンモノのプロ!!
 ホンモノのプロの話はわかりやすくオモシロイ!!
 それは、私が勝手に作ったルール 逆も真なり
 わかりやすくオモシロイことこそが、ホンモノ!!
・今回も制作にあたり「先読みキャンペーン」が実施された。
 “雲友”の多くの人の意見が反映された本になっているハズ。
 ダカラ わかりやすく 楽しくオモシロイ!!
 
まだまだありそうだが、もう少しこの本にそって見ていこう。
CHAPTER1~4 に分けてある。
CHAPTER1「すごすぎる 雲と生活 のはなし」
CHAPTER2「すごすぎる 空と文化 のはなし」
CHAPTER3「すごすぎる 気象と気候 のはなし」
CHAPTER4「すごすぎる 天気と防災 のはなし」
64項目にもついて「 はなし」がある。
 そのながでも特に気に入った「最高」の「最高に」の「はなし」をピックアップしてみよう。

・26 『枕草子』を気象学的に考えてみたら
・27 声に出して読みたくなるかっこいい風と雷の名前
・28 ある地域でだけ吹く特別な風「局地風」
・31 夜空を見上げるのが楽しくなる満月の名前
・32 日本でも観察できるオーロラのしくみ(タイムリーなはなし!!)
・42 天気予報でよく聞く「平年並み」とは
・59 AIで天気予報はどこまでできる?
・61 誰でもできる「観天望気」で未来の空を予想しよう
・62 「災害デマ」に振り回されないための知恵
・63 天気の急変に備えよう! 気象情報の使いこなし方
・64 自分にあった避難を考えよう
※特に61~64は必見・必読!!
 詳しくは手にとって読んでみよう。 

▼最後のお薦めポイントにいく。
(3)解説動画で、楽しく個人レクチャーを受けることができる!!
著者のこのシリーズでは、アタリマエのことになっているが、考えてみるととてもアリガタイことだ。
 本文を読みながら、解説動画を見せてもらっていると、完全に個人レクチャーを受けている気分になるのだった。
 なんでもゆっくりな私は、一度で理解できなかったところは繰り返し聞いてみた。
 アリガタイ!!
 説明のしかたもとてもわかりやすくうまい!!
「授業」でもこうすればよかったな と 少し「反省」!!
「実験」の方法、様子も動画で見ると とてもよくわかるので、ますますやってみたくナルハズ。

 少しだけ「蛇足」
 「オマケ」がとってもいい。
・気象観測ランキング
・天気予報がおもしろくなる用語集
・歴代の気象観測機器・大集合!
デス。

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【お薦め本】『竹取工学物語』(佐藤 太裕著 岩波書店)

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▼今年の春先に、しばし、前の竹薮で「竹」とつきあう機会があった。
 そんなカッコイイ話ではない。
 荒れ放題にしていた竹薮を、少しだけ片づけたのだ。
 ちょつとだけ「ポンコツ竹取の翁」を演じてみたのだった。
 あらためて、「竹」という「植物」を見ていると、なんか「凄いやつ」に思えてきた。
 その「竹」に関して、もっといろんなことを知りたい。
 それを教えくれる面白い本はないかとさがしていた。

▼そしたら、そのなかで出会ったのが今回の【お薦め本】である。
 まだ半わかりだが、あまりに面白いのでここであげてみることにした。

◆【お薦め本】『竹取工学物語 土木工学者、植物にものづくりを学ぶ』(佐藤 太裕著 岩波書店 2023.7.12)

 例によって、いつものように3つのお薦めポイントを先にあげておく。

(1)植物「竹」の凄さを、「構造力学」の視点で解明してくれている。
(2)身近なモノを、ちがった切り口で「科学する」面白さを伝えている。
(3)「常民の科学」の凄さと「これから」を語っている。

▼では蛇足にならない程度に、少しだけ詳しく
(1)植物「竹」の凄さを、「構造力学」の視点で解明してくれている。
  構造力学の研究者である著者の視点で、3つの「ふしぎ!?」を最初にあげてくれていた。
 すると現地で、竹を少しでも知る人にとっては至極当たり前なのかもしれませんが、穴と節、断面が丸ということしか認識していなかった私にとっては新しい発見がいくつもありました。そのうち、今後の研究に大きく影響を及ぼす事実が以下の三点でした。
(1)節と節の配置間隔(節間長)は縦方向に一定ではなく、根元(地際)と先端(梢端)付近で短く、中央部付近で長い 
(2)竹は円筒ではなく円錐形をしている
(3)竹を切って断面を見てみると、縦方向に貫く繊維(維管束鞘)の分布が断面内で一様ではなく、内側よりも外側に多く存在する
 (同書P21より)
はじめて聞けば、まったくシロウトの私には驚きの「事実」デアル。
 「なぜなんだろう!?」
 この謎解きを構造力学研究者の視点でみごとに展開してくれています。 
・竹の「節」がもつ力学的役割
・竹の「維管束」がもつ力学的役割
等など半わかりながら、ナルホド ソウイウコトカ と少しずつ読み進めていくと、思わず感嘆してしまいます。
 うまいことなっとるんやな!!
 竹ってなんて賢いんだ!!
 竹は凄い!!
 と。

(2)身近なモノを、ちがった切り口で「科学する」面白さを伝えている。
 「竹」に限らず、身の回りのモノたちについて、ちがった切り口で「科学する」ことの有効性・面白さを次のように語っていた。

 竹や樹木をはじめとする自然由来の植物を構造物に見立て、その形状や仕組みを力学的な観点からひもとくことは、長年にわたって植物たちが積み重ねてきた智恵を、私たちが獲得することにつながると思わずにはいられません。
 また、次世代で求められる自然と調和する構造物を開発していくために、自然との関わり方を誰よりも知っている植物たちに訪ねることは極めて合理的なアプローチであるといえるでしょう。さらに、植物そのものを力学的特性をうまく利用した材料として使用し、かつ日進月歩で進化する科学技術を駆使して材料としての機能を高めることで、植物は私たちの暮らしを豊かにするツールとなりえるわけです。(同書P74より)

 竹との「つき合い」をもう少し考えてみたいな!!
 このままでは少しモッタイナイ!!

▼最後のお薦めポイントに行きたい。
(3)「常民の科学」の凄さと「これから」を語っている。
第一章のタイトルはこうだった。
 「竹取の翁は優れたエンジニアだった?」
 なかなか興味深い作業仮説の導入である。
 「野山にまじりて、竹をとりつゝ、よろずの事に使ひけり」というのであるから、これが教えてくれるように

我々の祖先は科学や工学が発達する以前の遙か昔から、竹の優れた構造・材料的性質を「経験的に」認識し、生活のさまざまな場面で利用してきたのではないか、と想像されます。現代に生きる私たち日本人が何気なく使う竹の心地よさを、竹取の翁も感じていたのかもしれません。(同書P4より)

 竹取の翁も「経験的」に認識していただろう先人たちのすぐれた智恵と技術!!
 そこから生まれた科学、それを私は勝手に「常民の科学」と呼びたい。
 それらは営々と引き継がれ今日にいったっている。
 それらは、「これから」の科学技術のあり方についても大きなヒントを与えてくれている。
 研究領域は私が把握しきれないほどに広がり、細分化されてきていますが、研究者それぞれの専門領域から植物を深く洞察したときに知りうることを共有できれば、学術の大きな世界が開けてくるのではないでしょうか。研究は研究者のためだけにあるのではなく、一般の方のものでもあります。科学という範疇に入っていないと皆さんが思われるような、経験的な知見や発想もまた貴重で、こういったことを科学者と共有することも大きな価値があると考えています。土木工学、機械工学の視点から植物を見るということは、通常ではないことかもしれませんが、皆さんもご自身の専門や得意分野から、関係なさそうな別のものを眺めてみるときっと面白い気づきがあると思います。
 (同書P105より)

 もういちど、ヤブ蚊の出てくるまでに竹薮をのぞいてみたくなってきた。

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【お薦め本】『ファラデーのつくった世界!』(藤嶋昭・落合剛・濱田健吾著 化学同人)

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「中学校理科」はファラデーで決まりだ!!

 長年中学校で「理科の授業」を続けて来た人間の確信だった。
 「ここでもやっぱりはじまりはファラデーか!!」
 何度、そう思ったことだろう。
 最近、いや「中学校理科」だけではない。
 ファラデーは私が思っていた以上にもっともっと凄いのかも知れない!?
そう思わせてくれる本に出会った。

▼それが、今回の【お薦め本】である。

◆【お薦め本】『ファラデーのつくった世界! ロウソクの科学が歴史を変えた』(藤嶋昭・落合剛・濱田健吾著 化学同人 2024.4.1)

いつものようにお薦めポイントを3つあげておく。

(1)ファラデーの仕事の全貌が見えてくる。
(2)ファラデーのやった実験を豊かな動画で楽しめる。
(3)「これから」の科学のヒントがここにある。

▼では少しだけ詳しく語ってみる。
(1)ファラデーの仕事の全貌が見えてくる。
 4つのPARTから構成されていた

PART1 ファラデーってどんな人?
PART2 ファラデーとその発明・発見:現代にどう影響しているか
PART3 ファラデーと彼をとりまく科学者たち
PART4 実験「ロウソクの科学」の感動を再現する

これまでのファラデー本の「総集編」の様相を呈していた。
ともかくファラデーのことならなんでもふれてあった。 
最後に「参考文献(P132)」がまとめてあるのもアリガタイ!!

個人的には、たいへん興味を持ってきた「ファラデーの日誌」についてもふれてあつた。

一般的に実験ノートには、日々の実験について方法や結果などを記録して残しますが、ファラデーのノートはひと味ちがいます。彼は、研究に関して実験方法や結果以外にも、たとえば結果に対する考察や次の実験の計画、結果の予想、先行研究などの報告についても書きこんでいます。また、それぞれの段落は短文をまとめ、通し番号をつけていました。番号をつけることでデータが整理され、表やグラフを作成するときに出典をわかりやすくできたことでしょう。このように、彼の実験ノートはただの実験記録ではなく、論文の下書きような完成度となっていました。(同書P18より)

なんかファラデーの「仕事ぶり」がわかるようで、学ぶところ大ですね。
他に巻末にある
「ファラデー年譜」
「ファラデー自身の研究と関連したテーマでの金曜講演会」
「ファラデーが世話した講演会」
「用語解説」
等など たいへん興味深い情報が満載である!!


(2)ファラデーのやった実験を豊かな動画で楽しめる。
 これがこの本の最高のお薦めポイントかも知れない。
PART2 9編
 PART4 27編
 合わせて36編もの実験動画(YouTube)が、楽しめるのである。
特に
PART4 実験「ロウソクの科学」の感動を再現する
においては、今すぐ居ながらにして
「ロウソクの科学」6講を追体験できるのである。
   こんなうれしいことはない。最高だ!!

▼最後のお薦めポイントに行こう。

(3)「これから」の科学のヒントがここにある。
 特に今回、これまで思ってきた以上に「ファラデーは凄い!!」と思ったのは、

PART2 ファラデーとその発明・発見:現代にどう影響しているか
  
 を読んでからである。
 今さらながらはじめて知ることも多く、ファラデーの「仕事」が、現代の最先端の「科学」とどうツナガッテイルかを知った。
 どうやら、「これから」の科学ともツナガッテイクようにも思えてきた。
 最後にあの「ロウソクの科学」の最終講におけるファラデーの言葉が引用してあった。

 “若いみなさんに伝えたいのは
 「きたるべきみなさんの時代において、
  ローソクのようになってほしい」
 という私の願いです。
 すなわち、みなさんの行動すべてにおいて、
 人類に対するみなさんの義務の遂行において、
 みなさんの行動を正しく、
 有益なものにすることによって、
 ロウソクのように世界を照らしてください。”
(同書P123より)

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【お薦め本】『熊楠さん、世界を歩く。 冒険と学問のマンダラへ』(松居竜五著 岩波書店)

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▼私は、ずいぶん昔になるが、次なる拙い文章をある教育雑誌に書いたことがある。

 

◆「南方マンダラ」にこれからの理科教育をみる (2010年3月)

  なにもわかっていないくせにエラそうに!?
 今、読み返してみると恥ずかしいかぎりである。
 でも、やっぱりそれは「正しい」のかも知れない!?
 と思わせてくれる本に最近出会った。

▼それが、今回の【お薦め本】である。

◆ 【お薦め本】『熊楠さん、世界を歩く。 冒険と学問のマンダラへ』(松居竜五著 岩波書店 2024.03.14)  

いつものようにお薦めポイントを3つに絞る。
3つは相互に関連し、同じことにツナガッテイルが、前後しながら私の理解した範囲で紹介してみたい。 

(1)焦点化されたテーマで、世界を「楽しむ」熊楠像を描く!!
(2)とても平易なわかりやすい文体で、誰もが読みやすい!!
(3)南方熊楠の世界を追体験(共有)してみたくなる!!

▼では、ひとつずつ行こう。
(1)焦点化されたテーマで、世界を「楽しむ」熊楠像を描く!!

 ちょっとこれまでの「熊楠」本とちがうニュアンスを抱かせる本だった。
 「はじめに」の文章を読むうちに、そのわけがわかってきた。

 この文章をからわかるのは、熊楠さんが何よりも「楽しさ」というものにこだわった人だということだ。そもそも熊楠さんは世間的には「博物学者」と呼ばれているけれど、何をしたかと聞かれると、ひとことでは言い表せない。生物学者であり、民俗学者でもある。さらに歴史や文学、人類学や生態学など。今の学問で言えばとても「学際的」にいろいろな分野にまたがった研究をしていた。だから、熊楠さんのことを理解するのは難しいと、これまではかなり長い間、信じられてきた。
 しかし、熊楠さんという人は、宇宙のすべてを対象としながら、「楽しさ」のために学問をしている人だと考えれば、とてもわかりやすいところがある。熊楠さんにとっては、学問的な制度や分野や枠組みは二の次だった。その時、その時の、自分の好奇心がおもむくままに、楽しみを宇宙から「心」に取り入れていただけだ。そういう意味からは、世間の評価とはうらはらに、実は「楽しさ」のみを追い求めた、とても理解しやすい人だったと考えた方がよいのではないだろうか。
 筆者の考えでは、熊楠さんという人は、「子どもの眼」とでもいうべき純粋な好奇心を、一生にわたって持ち続けた人だ。熊楠さんの言っていることは、虚心坦懐に見れば、いつも当たり前の疑問からストレートにものごとをとらえた結果、生じたものであるように思える。そのため、こちらの方も学校で習ったり、インターネットで調べたりした生かじりの常識的な知識を捨てて向き合うと、熊楠さんのやっていることの整合性に納得がいく。
(同書 「はじめに」Pⅶより)


 ナルホド!!納得である。ダカラか
 さらに、この本の意図を次のように語っていた。

 この本では、顕彰館を中心とした一次資料を十全に活用した上で、熊楠さんの内側からの視点を読者が体感することを目的としている。熊楠さんの見た世界を、まるで自分の中で繰り広げられるように感じてもらいたいというのが、筆者としてのちょっと高望みかもしれない願いだ。そのために「図鑑」「森」「生きもの」という三つのキーワードを設定してみた。熊楠さんが関心を持ち、世界の不思議を追い求めていった出発点が、そこにあるからだ。(同書「はじめに」Pⅷより)

 それに呼応するように三つのキーワードに焦点化し、3部構成となっていた。
第1部 熊楠さん、図鑑の世界に目覚める
第2部 熊楠さん、世界の森をかけめぐる
第3部 熊楠さん、生きものを見つめる

「熊楠さん」研究の第一人者である著者が案内してくれる「熊楠さんの世界」は最高に楽しい!!

 

(2)とても平易なわかりやすい文体で、誰もが読みやすい!!

 実は、これこそがこの本の最大の特色であり、最高のお薦めポイントかも知れません。
本のタイトルからして、親しみを込めて『熊楠さん、世界を歩く』となっていますよね。
 この本の中では「熊楠さん」は、始終一貫しています。
 この本のスタンスの意思表明が、早い段階でしてあった。

 「はじめに」でも述べたことだけれども、熊楠さんが書いた原文はこんなふうに、今の読者から見るとやや読みにくい文語体で書かれている。そこで、この本では熊楠さんのことばの引用に関してはすべて、手軽に意味を読み取ることを重視した現代語訳で通したい。(中略)
 こんなこんなふうに、エッセイ調のくだけた内容のものについては軽く、論文調の堅いものに関してはやや重厚に、あらたまった手紙の場合はていねいに、筆者の印象に沿って意訳していきたいと思う。熊楠さん以外のものでも、近世以前の文章は基本的にこれに準じることとする。
 もしかしたら、この文体だと一般的な熊楠さんのイメージとは少し異なっていると感じられるかもしれない。ただ筆者としては、「はじめに」で述べたような、この人が生涯持っていた「子どもの眼」を活かすことを優先したい。そこで、そういう誰の中にもある「内なる熊楠さん」を意識した訳し方をしていきたいと考えている。(同書P4より)

  スバラシイ!!大賛成デアル。
 また、「ボク」へのこだわりもたいへん気に入った!!

 そこで、この本での熊楠さんの主な自称を「ボク」とした。これは当然ながら賛否両論があるだろう。人によっては「こんないい子ぶった熊楠なんかイヤだ」と言われるかもしれない。そうした批判も、筆者として甘んじて受けるつもりだ。ただ筆者としては、熊楠さんと自分とを結ぶ最短距離にあるのがこの一人称だった。そして、子どもの頃から晩年まで一貫して自分の興味関心に忠実であり続けたこの人物のストレートな性格を表現する際には、やはりこの選択が最適だと思う。(同書「おわりに」P208より)

この本が、なぜこんなにも読みやすく面白いのか。わかる気がするのだった!!
 ホンモノはわかりやすく面白い!!

▼では、最後のお薦めポイントに行こう。
(3)南方熊楠の世界を追体験(共有)してみたくなる!!

 あの「知の巨人」の世界を追体験するなんておこがましい話だ。
 しかし、この本に書かれた「熊楠さん」の世界なら、ちょっと覗くぐらいなら、私にもできかも知れない。そう思わせてくれるのがうれしい!!
 私にとってのこの本の「本命」は、この章にあった。

14 「南方マンダラ」の構想からエコロジー思想にたどり着く 

これまでの「冒険」と「学問」のマンダラはここに集約されていた。
 これまでの各章はここへの序章に見えてくるのだった。
 「萃点」は、ここにあった!!
 この文脈のなかで、「南方マンダラ」とは
 引用させてもらいはじめたら、きりがない気がする。
 それこそ「蛇足」というものだろう。
 
 と言いながら、やっぱり少しだけ引用させてもらおう。
 なんと優柔不断な性格なんだろう。(自分でも呆れる)

 熊楠さんは、「南方マンダラ」の一本一本の曲線は「事理」を意味していると説明している。それはつまり、一つの原因には一つの結果があるという、近代科学の「因果律」と呼ばれる原則を基礎として、自分の世界観を描こうとしたということだ。その無数の因果律は宇宙のすべてを貫いているから、それを一つひとつ解きほぐしていくことで、人間の考えの及ぶ範囲でならば、どんなことにもたどり着けるということになる。
 それらの因果のみちすじ同士は、それぞれ時には偶然に近づいて、お互いに干渉し合ったりもする。そのことによって、熊楠さんの用語によれば「縁」が生まれ、それが「起」となって新たな因果を生みだす(図14-2)。だから、ここに描かれた複雑な世界は、さらに高次元の複雑な現象を引き起こし続けているということになる。そのようにして世界の中でさまざまなものごとが止むことなく、終わることなく進行していくようすを、熊楠さんは「不思議」という名でも呼んだ。学問とはその「不思議」を解き明かしていく作業ということになるだろう。(同書P177 より)

 そして「萃点」についてはこうだ。

 「南方マンダラ」の中心付近には、多数の線が交錯する場所に(イ)と記されている。この(イ)のような、さまざま地点とつながっている点のことを、熊楠さんは「萃点」と呼んでいる。ここから世界の考察を始めることができれば、多くの地点に素早く達することができる。つまり、学問的な観点から言えば、世界の全体が理解しやすい地点ということになる。ものごとを手早く知ろうとするならば、萃点を押さえるのが近道だ。(同書P178より)

 
 これが、なぜこれからの「理科教育」と関係あると思ったんだろうか!?
 その話は、また別の機会にしよう。

 ともかくこれまでとはちょっとちがった「熊楠さん」の世界を存分に楽しめる本だ!!
 久しぶりに「熊楠さん」を訪ねて行きたくなってきた。
 

 

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【お薦め本】『ウマは走るヒトはコケる 歩く・飛ぶ・泳ぐ生物学』 (本川達雄著 中公新書)

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▼私は、糖尿病対策と「ひとり吟行」をかねて、基本的に毎日きめた歩数以上「歩く」ようにしている。
 ちょっと天気の悪い日などがつづいて、「歩く」のをさぼっていると、体調悪く感じてしまう。また目を悪くしてしまい、車で移動することがなくなってしまっていた。
 そんなこともあって、最近「歩く」にとっても興味を持っていた。

▼そんなとき、あの名著『ゾウの時間 ネズミの時間』の著者が、とても興味深いタイトルの近著を出しておられるのを知った。
それが今回の【お薦め本】である。

◆【お薦め本】『ウマは走るヒトはコケる 歩く・飛ぶ・泳ぐ生物学』 (本川達雄著 中公新書 2024.2.25)

 最初から正直にことわっておく。
 いつものことと言えばそれまでのことだが、ポンコツ頭の私には、この本の内容をまだよくわかっていなかった!!
 それなのになんで【お薦め本】にあげるのだと言われれば困ってしまう。
 でもやっぱり【お薦め本】にあげておきたかった。
 それはなぜだろう!?
 自問自答しながら、これを書いている。

 いつものように、【お薦めポイント】3つをあげておく。
 やや的外れという気もするが

(1)動物の「動く」を「力学」で読み解く!!
(2)アタリマエに見えていた動物の「動く」に感動する!!
(3)私の「動く」を科学してみたくなってきた!!

▼私が理解できる範囲でということで、ポイントひとつずつみていこう。
 
(1)動物の「動く」を「力学」で読み解く!!

  動物の「動く」をこのように理解していた。
 だから「はじめに」の冒頭の文にはうんと納得できた。

 動く物と書いて動物。動物の最も動物らしいところは動くところだろう。餌を求めて出歩く、逆に餌にされそうになったら逃げる。時節になれば異性を求めてうろつく。季節ごとに棲みやすい環境を求めて長距離の渡りをするものもいる。サンゴやフジツボのように海底に固着している動物でも、幼少時代には大海原を移動して棲息場所を広げている。
(同書「はじめに」ⅰより)

 その「動く」をより豊かに語ってくれるのだろうと期待していた。
 ところが、正直言ってページめくるたびに仰天してしまった。
【コラム】には
・テコ  
・ニュートンの運動の法則
・運動量保存則とフルード効率
等々
 本文にも「流体力学」「連続の原理・ベルヌーイの原理」「抗力と流線形」等などごくアタリマエにでてくるのである。
 物理・力学などあまり得意でない私は面食らってしまった。
 そりゃそうだけど!?
 なんだろうこの違和感!!
 ちょっと期待を裏切られた気分でいた。ポンコツ頭の私には「力学」と「生物学」は別々の引き出しにしまれていた。(たいした「知識」ではないが)
 しかし、最後の最後に、「おわりに」書かれたこの本の本意を読んだとき、この本がやっぱり【お薦め本】でまちがいないと思いだした。
 少し長いが引用させてもらう。

 子供は生きものが大好きだし、小学校や中学校で目に見える生物のことを学んでいる間は理科生物分野という教科も好き。だが、中学三年でメンデル遺伝の法則という目には見えないものが出てきたとたんに生物嫌いが増える。
 重力や弾性力も見えないものだが、コケれば痛いしゴム製のパチンコの弾が当たればやはり痛い。これらの力は実感できるものなのである。だからそれらを使って説明すれば、自身の歩行や他の動物の動きも、そして動きの基礎になっている体の構造も、中学生なら実感を伴って理解できると筆者は思う。しかし重力や弾性力を中学物理分野できちんと学習した後でなければ、生物の授業でそれらを使った説明を行ってはいけないことになっている。そのため、動物の運動や、脊椎や肢の働きについて中学校ではきちんと説明されることなく、その状態のまま高校で分子生物学を学ぶことになる。
 日々の生活に密着した運動と「それを可能にするために体がこんなふうにできているんだなあ」という実感を伴った理解。これらは良い社会人になり、健康な毎日を過ごすためには必須の生物学上の知識・理解だと筆者は強く感じているのだか、それを得る機会が、初等中等教育のどこにもない。だからこそ本書を書いた。(同書P285より)

 (2)アタリマエに見えていた動物の「動く」に感動する!!
 そういうことか!!
 そのつもりになって本書を読み返してみると、ますます面白い!!
 今までのアタリマエが感動的に見えてくる。
 「ヘエー、うまいことなっとるな!!」
 「誰がこんなすごいこと考えたんや!?」
 「これぞ科学や!!」
などとひとり言を連発していた。
 変なところにも感動していた。

 歩く場合は肢を持ち上げて前に出す必要がある。肢が3本ならば、そのうち1本をもちあげれば2本肢で立つことになり、体は不安定になってしまう。肢が4本あれば、1本を持ち上げてもまだ3本は地面に着いており、この3本の肢の描く三角形から重心がはずないようにしながら肢を踏み出せば、体が不安定になることはない。4本肢とは静的安定を保って歩ける最低の本数なのである。実際、どの四肢動物においても、非常に遅く歩く場合には常に静的安定を保ちつつ進む。(同書P15より)

 おおっ、これぞ「立春の卵」の力学ではないか!!
 こんなのもあった。

結局、歩行においては重心を上げて重力位置エネルギーを蓄え、次に重心を落下させて蓄えた位置エネルギーを運動エネルギーへと転換して重心を前へと押し進め、さらにこの運動エネルギーを使い重心を再度押し上げて位置エネルギーとして保存し、またこれを次の一歩に使う。こうして重力位置エネルギーと運動エネルギーを相互に転換することにより、エネルギーを再利用し、輸送コストを節約しているのが、倒立振り子のように肢を振る歩行である。(同書P56より)

  このように、きわめてアタリマエのことも、「力学」で科学してもらえば、うんと納得がいくのである。    
やがてこの本のタイトル『ウマは走る ヒトはコケる』の意味も少しずつ見えてくるのだった。
 私は、なかでも特に興味をもった動物の「動き」 は「飛ぶ」である。

 鳥の体には飛ぶためのさまざまな工夫が見られる。(1)体の軽量化。(2)強力な飛翔筋とそれを支える骨格系。(3)効率の良い翼を形成する羽根(羽毛)。羽根はまた高空を高速で飛んでも体が冷えないよう、体温を高く一定に保つ役目もはたす。鳥の体温は40~42℃と哺乳類よりも高い。飛ばないダチョウの体温は哺乳類と同じであり、高い体温は飛行に必要な高い代謝率に寄与している。(4)高い代謝率を保てる効率の良い呼吸系。これにより飛翔筋への大量エネルギー供給が可能になっている。(同書P209より)

 繰り返し出てくるコトバは「うまいことなっとるな!!」ばかりだった。 
 これぞ「進化」のなせるデザインなんだろうか。
 この本を読んだ後、毎日見ている鳥たちの「動き」が気になってしかたない!!
 鳥たちはやっぱり超すごい!!

▼最後のポイントにいこう。 
(3)私の「動く」を科学してみたくなってきた!!
 最初に述べた私の「動く」に関連して、とても興味をもった章があった。
 それが、第4章「車輪」である。
 「自転車」を褒めているのだった。
 

 車輪の悪口を言ってきたのだが、こうして舗装道路を張り巡らしてしまったのだから、せめて排気ガスを出さない車輪を大いに使おうではないかという議論をしたい。

 自転車を褒めたいのである。自転車はなんと言っても効率がいい。海から陸上に上がってしまつた動物では、一番力を使うのは体を持ち上げておくところ。歩行・走行の垂直成分(体を持ち上げる力)は水平方向(推力)の8倍。それほど体を持ち上げるのには力が要り、それにはエネルギーを使う。その分がないから自転車は楽に進めるのである。(同書P106より)

 話は徹底していた!!
 これがまた面白いのだが、このあと「自転車の歴史」へとつづくのだった。
 そして、最後には著者の持論「自転車のすすめ」が登場するのだ。

 それに対して機械を使っていると言っても、自転車は自分が汗を流して動かすものである。風を受け、景色を楽しみ、きょうも生きているなあと感じられ、乗ること自体を目的として楽しむことができる。自転車ならば通勤は活動的行為となり得る。
 機械を使うとどうしても主役が機械になってしまう。それに対して自転車は機械というより、自分の手足の働きを助ける道具であり、主役は人間で、道具はアシスタント。現代の暮らしは過度に機械に頼り、機械に使われている感があるが、なるべく人を主役にして機械はそれをアシストするように使って、その分、機械のエネルギー消費量を減らすことを考えた方が良い。その観点からすると、自転車はまさに優等生であり、「アシスト自転車」という言葉は象徴的である。(同書P117より)

 大賛成デアル!!
 実は最初に言ったような事情で、自動車の利用がこれまでのようにいかなくなっていた。そこで、新しく「自転車」を購入していた。
 この「自転車のすすめ」を読んで、もっとこの自転車を利用しようと思いだした。
 えらく個人的な私の「動く」の話になってしまつたが。

 「歩く」を含めて、私自身の「動く」を楽しく科学してみたい!!

 

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【お薦め本】『まちぶせるクモ 網上の10秒間の攻防』(中田兼介著 コーディネーター辻 和希 共立出版)

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▼私のシロウト「クモ学」は、2013年7月に偶然にはじめてコガネグモの「狩り」を目撃したことにはじまる。急激に、「クモ」たちの「ふしぎ!?」に惹かれていった。
 いちばんの「ふしぎ!?」は、ずっと身近に一緒に生きてきたはずなのに、なぜこんなすごい生きものの「ふしぎ!?」に気づかなかったということだろう。
 待望の「クモはすごい」は、すでに書かれていた!!
 それが、前回の【お薦め本】だった。

◆【お薦め本】『クモのイト』(中田兼介著 ミシマ社)


▼あまりに面白かったので、著者・中田兼介先生の「クモ学」の本をさがした。
 あった!!
 それが、またまた面白かった。
 そこでつづけてになるが、次の本をぜひ【お薦め本】にあげたくなってきた。 

◆【お薦め本】『まちぶせるクモ 網上の10秒間の攻防』(中田兼介著 コーディネーター辻 和希 共立出版 2017.3.15)


 やはりお薦めポイント3つをあげる。
 今回も面白く学ぶところが多すぎて3つはむつかしかったが、あえてこうした。

(1)焦点化することにより「クモ学」の面白さをより豊かに語ってくれている!!
(2)本格的科学研究のすすめ方のヒントがここにある!!
(3)これがプロの「クモ学」のすすめだ!!

▼ポイントをひとつずつ少しだけ詳しく

(1)焦点化することにより「クモ学」の面白さをより豊かに語ってくれている!!
 まず、この本のタイトル・サブタイトルがとっても気に入っていた。
 『まちぶせるクモ 網上の10秒間の攻防』
「10秒間の攻防」についてはこうだ。

 10秒強ほどの時間で起きる。このクモとエサの攻防戦の舞台が、円網だ。そして本書は紙幅のほとんどを使ってこの10秒間を説明する1冊てある。(「はじめに」ⅶより)

 事実「もくじ」は次のようになっていた。
 1 まちぶせと網
 2 仕掛ける
 3 誘いこむ
 4 止める
 5 見つける
 6 襲いかかる

 次は「網上の」だ。
 著者は「網」にこだわっていた。

 クモが糸で建築する罠のことを「クモの巣」と呼ぶ人は多い。しかし、本来「巣」という言葉は、本来棲むところを指すものだ。確かにクモは自分の作った罠の上で暮らしている。だから、網のことを巣と呼んでも間違っているわけではない。しかし、網の最も大事な働きは、エサの動きを止め、クモが襲いかかるまで逃がさないよう、その場に留め置くことだ。こういう役割をもつ「巣」は、動物の世界では珍しく、特別な存在である。なので本書では、生物学者としての細部へのこだわりを発揮させてもらって、「クモの巣」の中で罠としての働きをもつものを「網」と呼ぶ。本書の中心テーマはこの「網」だ。(「はじめに」ⅴより)

 いいですね!!
 この「こだわり」に大賛成です。
 まったくのシロウトの私も「巣」には抵抗があり、「ネット」(ときにWeb)というコトバをつかってきていた。
 最後になってしまったが、メインタイトル「まちぶせるクモ」の「まちぶせ」である。
 「まちぶせ」について、「おわりに」のなかでこう語っていた。少し長いが、あまりに面白いので…。
 引っ込み思案なこともあって、待つことは習い性だ。子どもの頃は、家で友達が遊びに誘ってくるのを待っていることが多かった。生き物の生態や行動を調べるようになった今では、野外で動物が来るのを待ったり、実験条件が整うのを待ったりするのは日常茶飯事、待つのが苦にならないタイプでよかったとしばしば思う。
 そんな私がアリの社会を扱った博士論文書き上げた後、次の面白い研究テーマを探してぶらぶらしているときにクモと出会ったのは、天の配剤だったのかも知れない。それから20年、勤め先を三度も変えながら、曲がりなりにもクモの研究を続けてこられたのは、罠を仕掛けて誘いこみ一気に動いてカタをつける、彼女たちのまちぶせの巧みさに魅了させられたからだろうか、いや、辛抱強く機を待ち続ける彼女らの姿に何かシンパシーのようなものを感じていたからかもしれない。(「おわりに」同書P122より)

 こう言う著者のモノローグ風語りが大好きです!!
メチャクチャ納得である!!
 これで、タイトル・サブタイトル『まちぶせるクモ 網の上の10秒間の攻防』のすべてが浮き彫りになってきた。
 クモの世界をこのように焦点化することによって、その面白さをより豊かに語ってくれているように思った。
 私が最初にコガネグモの「狩り」を目撃して、「クモ学」に惹かれていったわけもわかるように思えてきた。

(2)本格的科学研究のすすめ方のヒントがここにある!!
 きっとこの本のメインは、ここにあるのだろう。
 事実、この本を読み進めていくうちに、「さすがプロ!!」と驚き感動することが多かった。
 「科学研究」とは、こんな手順で進めるものであるのかと目から鱗であった。
 ナルホドと感心したところも多い。少しだけアトランダムにピックアップしてみる。

 このことから、クモの網の作り方を理解するには、ただエサを獲ることだけ考えていればよいのでなく、彼らが網を使ってどのように環境を認識しているか、という視点も必要だといえる。動物の世界では、食べることと知ることは分かちがたいことなのかもしれない。(同書P28より)

 実験には音叉を使った。ピアノの調律のときにカーンと鳴らす、U字型のあの道具だ。捕食者とは何の関係もなんの関係なさそうに思えるがさにあらず、造網性のクモは視覚が優れない代わりに振動には鋭敏に反応し、足場の揺れや、空中を伝わってくる揺れ(音のことだ)に対して優れた感覚をもつ(略)、そのため、音叉を鳴らして近づけてやると、クモは種によっていろいろの反応をしてくれる。自然観察会などで実演するのにちょうどよい題材である。(同書P38より)

 やっぱりそうか!!ゲホウグモが早朝より暗闇で「店じまい」するのを観察したとき、たしかに私もそう思った。今度から、これを使わせてもらおう。
 そこで私はあらためて先行研究を精査してみた。すると、実験的な手法を使って確実な得た研究では、おびき寄せ説を支持したり対捕食者説を否定するものに直線上の白帯をつける種を対象にしたものはほとんどなかったのだ(中田2015)、やはり白帯は、形によって違った役割をもっている。では、直線上の白帯はどんなメカニズムでクモの安全性を高めているのだろうか?この答えはまだわかっていないが、クモの上下に伸びる目立つ白帯が、クモのいる場所をわかりにくくさせている。というのが1つの可能性だ。(同書P46より)
 
 「先行研究」の精査、仮説立て、可能性の追求!!
 科学研究は、いつも直線的とはかぎらないんだ。それが醍醐味でもあるのだろう。
 ここでも、やはり著者の魅力は等身大の語り口調だった。
 クモの行動の研究というのはおよそ世間の役には立たないものだ。そんなわけで、私の研究生活は、あふれる予算とは無縁である。役に立つ学問分野のようにはいかない。そんな私の支えがホームセンター、安価な家庭用グッズをどうやって実験・調査に利用するか考えながら、消費文明の権化ともいえる商品棚の間を歩き回る至福の時だ。たとえば、私は小さなクモを生きたまま手術することがあるのだが、そのときに使う保定用具は…(同書P61より)

 およそ生き物が秩序立ったことをしているとき、どんなささやかなことに見えても、そこには何か意味があるはずだ。一方、クモが網を引っ張っているという話は、何かで読んだこともなければ、誰かからも聞いたこともなかった。ということは、ひょっとして私はまだ世界で誰も気づいていないような新しい現象を発見したのだろうか?ひゃっほう?!(同書P73より)

 こんなの読んでいると、こちらまでうれしくなってきますね!!
 ますます著者の大ファンになってしまいますね。
 いやいや、まだまだこんなものではなかった!!
  いやしかし落ち着け、クモが網を引っ張っていることにこれまで誰も言及していないのには、まったく別の可能性もある。重要な生物学的意味がないので、わざわざ記述するまでもない。という可能性だ。このがっかりするようなシナリオを潰すためには、現象をみつけて喜んでいるだけではダメだ。その役割をちゃんと明らかにしなければ。(同書P74より)

 このあとのみごとな論理展開!!
 クモたちにまけない持続的「まちぶせ研究」!!
 ポンコツ頭の私には、すぐには理解できぬほどのするどい「クモ学」研究!!
 「クモ学」は総合科学研究だ。

 最後に著者が「おわりに」の末尾に書かれた文章を引用させてもらおう。

 こういうスタイルは、生物学の教科書を書き換えるような大発見にはつながらないかもしれない。私が、ギンメッキで見つけたことも、また射程が広くないからだ。しかし、よく考えてみれば、私は元々、大きな発見をしてやろうとかの野心を持ち合わせてこの業界に入ったわけではない。ただ自分と違う他者のことを理解したいと思うだけだ。だから別に教科書を書き換えられなくったって、一向に構わない。個々の生き物の理屈がわかるようになる。これこそが、生物を対象にした学問の醍醐味だろう。そう思って、私は明日も網の前に座って、何か面白いことは起きないかな、と待ち続けるのである。(同書P124より) 

 
 この本は、本格的に科学研究をすすめるヒントをくれるだけでなく、研究のモチベーションをうんと高めてくれるのである。
 
▼最後のお薦めポイントに行こう。
(3)これがプロの「クモ学」のすすめだ!!
 このポイントを、コーディネーター役の辻和希さんが「アマチュア研究家に薦めたいクモの行動生態学へのガイド」なかでうまく語っておられた。
 小中高校の理科の先生には、本書をぜひ読んでもらいたい。クモのようなそこかしこにいる小さな生き物を、ホームセンターで買える程度の簡単な道具を使い、知恵を絞って実験や観察をすることで、先端科学的な研究ができるというのは、教育現場において魅力的でないだろうか。本書は小中高校の教育現場で、たとえば夏休みの自由研究やスーパーサイエンスハイスクールでの生徒の研究などのよい参考教材になると思う。(同書P132より)

 まったくの同感である!!
 そして、なにより、これからの私のシロウト「クモ学」の最高の参考文献になることはまちがいなかった!!

 さあ、今年はどんなクモの「ふしぎ!?」との出会いがあるのかな!?
 楽しみだ!!

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