【お薦め本】『チバニアン誕生』(岡田誠著 ポプラ社)
▼「地球は1個の大きな磁石である」
「しかもそのN極とS極が逆転する地磁気逆転が何度も起こっている」
この驚くべき事実をはじめて知ったのは、はじめて中学校「電流と磁界」の授業をしたときだった。面白そうと思ったが深入りはしなかった(できなかった)。もうひとつ関連してたいへん興味をもったことがあった。
「磁石石」のことである。
最近では「地磁気逆転」の痕跡が刻まれたという「チバニアン」にすごく興味があった。
面白そうだが、深く知るにはシロウトの私にはちょっとむつかしそうと思っていた。
▼そんなとき、私にもわかるかも知れないと思われる本が出たことを知った。
さっそく手に入れてみた。
◆【お薦め本】『チバニアン誕生 ~方位磁針のN極が南をさす時代へ~』(岡田誠著 ポプラ社 2021.6)
例によってお薦めポイント3つを最初にあげておく。
(1)子どもから大人まで誰もが「チバニアン誕生物語」を楽しめる本!!
(2)「チバニアン」のすごさを0からわかりやすく語ってくれる本!!
(3)研究の面白さを等身大に語り、「地球科学」の世界へ誘う本!!
▼ではひとつずつ少しだけ詳細に
(1)子どもから大人まで誰もが「チバニアン誕生物語」を楽しめる本!!
これは、「児童書」である。それがうれしかった!!
私は昔から「ほんとうの名著は児童書にアリ!!」という信念を持っていた。
初学者向けに書かれてわかりやすく面白い本は、誰が読んでも興味深く面白い。そんな本がほんとうの名著中の名著である。
この本は私のこの信念に応えてくれていた。
「児童書」ならではの配慮があってとてもうれしい!!順番関係なく気づいたこと列挙してみる。
・専門用語を使いながらもすべてにルビがうってある。
・章ごとに「用語解説」がある。(無理やり専門用語をさけ、簡単な言葉に言い換えるのでなく、それをわかりやすく解説するという姿勢に共感する)
・コラムは12あるがどれもすばらしい!!
・いちばん質問してみたいことがコラム「Q&A」でとりあげられている。
・「Q&A」の表記の方法がすばらしい。「A」はわかりやすく、簡明に結論がはっきりと書いてある。さらに詳しく知りたければ「Q」と「A」のあいだの説明を読めばいい!!
実にうまい!! なんかこれにいたく感動してしまった!!
・導入のカラーページがとてもわかりやすい。本文を読むのを楽しみさせてくれる。
・本文中の図はスペースをしっかりとってありわかりやすい。
等々である。ぜひ自分でも手にとって確かめて欲しい!!
(2)「チバニアン」のすごさを0からわかりやすく語ってくれる本!!
本の帯に 次のようにあった。
“チバニアン”とは 今から77万4000年前から~12万9000年前の地球の時代を示す名称。「千葉時代」を意味する。千葉市原市の地層にちなんで命名され、2020年1月正式に決定した。
ニュース等を通して「すごいこと!!」とはわかっているつもりでいた。しかし、そのすごさのほんとうの意味はよくわかっていなかった。
というのが正直なところだ。
たとへば「チバニアン」のはじまりの時代に起きた「地磁気の逆転」の話にしても、そもそも「地磁気」そのものについてのことをよく理解していなかった。
それを0から「地磁気研究」の歴史から説き起こし説明してくれていた。
アリガタイ!!
「無口な地層」が、私たちに何を語りかけてくれているのか!?
予備知識などなくても、「ふしぎ!?」を受けとるレセプターさえ持っていれば面白く読める。
▼最後に
(3)研究の面白さを等身大に語り、「地球科学」の世界へ誘う本!!
著者・岡田誠氏は「千葉セクションGSSP提案代表」である。
つまり「チバニアン誕生物語」の当事者であり、スタッフリーダーでこの物語の主人公である。
当事者が等身大に語るドキュメンタリーはもうそれだけで、すごい説得力をもつ。
面白さを倍増させているのは、第3章「僕はこうして、地質学者になった」だ。
岡田氏が「チバニアン」に出会うべくして出会ったことがよくわかる。
きっとこの章を最も印象深く受けとる若者もでてくるだろう。ひょっとしたら、そこから次なる「後継者」が生まれるかもしれない。
さらに、第4章「めざせ、チバニアン承認。国際レースにいどむ」はワクワクドキドキのノンフィクションドキュメント!
最高に面白い!!
少し「チバニアン」をはなれるが、とても気に入ったところがあった。
僕が考える「科学」とは
たとえば君たちが自由研究で、ある森に生えているキノコの調査をテーマにしたとする。(中略)
そこで君はある共通性に気づいたとする。それはキノコはどんな種類であってもほとんどが、日当たりが悪くジメジメと湿ったところに生えていることだ。
君が気づいたこのキノコの共通性は、「法則性」といいかえてもいい。
そして、この法則性は、この森だけで発見したものだけれど、君はほかの森でも成り立つと考えた。これを「仮説」とよぶ。
君がこの観察結果とそこから導きだされた法則性や仮説を、学校で発表したとしよう。(同書P189より)
まだまだ続く。
引用が長くなってしまったのは、いたくここに感動してしまったからだ!!
これぞすばらしい「自由研究」のすすめ!! ではないか!!
著者は、この本全体を通して、こんな面白い「地球科学」の世界へひとりでも多くの若者を誘おうとしているのだろう。いや、誘われるのは若者ばかりではないのかも!!
※ どうしても書いておきたい「蛇足」
日本ではじめて「地磁気逆転」を報告したのは松山基範博士です。
兵庫県のあの玄武洞で現在の地磁気の向きと逆方向を示す溶岩を発見したのです。(1926年)他の場所でもそれを確認・発見し、地球が過去に「地磁気逆転」を起こしていた可能性を指摘したのです。
しかし、松山博士のように実績も実力も認められた人でも「地球の重力が下から上に向かっていくようなものだ」と、まわりからひどいことをいわれ、認められることはありませんでした。失望したのか、それからの松山博士は地磁気の研究をやめてしまったようです。 松山博士は自分の説に唯一興味を示し、論文執筆中から助言を受けていた寺田寅彦の推薦で論文を発表していました。寺田寅彦は、科学者であり文学者として有名な人です。 この発表が知のバトンとなって、科学者たちにリレーのように受けつがれていきます。 (同書P192 コラム12「科学の発見は知のバトンでつながっている?」より)ここにも我らが寺田寅彦が関連しているなんてなんかうれしくなってきますね。 「チバニアン」への注目で、あらためて松山基範博士や寺田寅彦が注目されるようになるとうれしいですね。これが、どうしてもふれておきたかった「蛇足」です。
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