【お薦め本】『理系的アタマの使い方』(鎌田浩毅著 PHP文庫)
▼「知的生産」というコトバで何を思い出すだろう?
私がいちばんに思い出すのはあの名著『知的生産の技術』(梅棹忠夫著 岩波新書 1969.7.21初版)である。この本の初版が出てから半世紀以上たっている。
大いに影響を受けてきた。一度は、自分自身の「知的生産」の「原点」を見つめ直すそんな意味も込めてこのblogで少しずつ読み進めたこともある。
●『知的生産の技術』を読む
▼この春、今もっとも熱く今日的「知的生産」を語る本に出会った。
それが今回の【お薦め本】である。
◆【お薦め本】『理系的アタマの使い方』(鎌田浩毅著 PHP文庫 2021.4.15)
「店じまい」にかかったポンコツが、今さら「知的生産」というと笑われるかもしれないが、実に面白かった。著者は、「これから」の若人向けに書かれたかもしれないが、私にもたいへん面白く読めた。
いつものように3つのお薦めポイントを先にあげる。
(1)アウトプット優先主義の知的生産術を伝授!!
(2)自分の知的生産術を再吟味するのに最適!!
(3)「最初の一行目がなかなか書き出せない人」に有効!!
▼ではひとつずつ少しだけくわしくいこう。
(1)アウトプット優先主義の知的生産術を伝授!!
「情報は発信するところに集まる」は、ずっと使い続けてきたお気に入りのフレーズである。まずは自ら情報発信をすることこそが、もっとも手に入れたい情報を収集する有効な手段だと思っていた。ずっと唱え続けてきて確信は深まるばかりだった。
このフレーズと「アウトプット優先主義」どこか ツナガル 気がするのだった。
このコトバは、この本では何回も繰り返された。
例えばこうだ。
ここで「知恵」といったが、本書の内容自体は日常的なノウハウに近いものである。資料の整理法、時間の使いかた、作業の第一歩を踏み出せないときのコツ、アイデア出しや表現法などなど。
しかしそれらに例外なく通底しているのは、理系のアウトプット優先主義だ。
全体の構成は三部からなり、
①理系的システムの整備と情報の収集
②クリエイティブな情報整理と発想法
③理系的なアウトプットの実行と将来への準備
が語られる。(同書P6より)
(2)自分の知的生産術を再吟味するのに最適!!
この歳になると、「これまで」とちがう手法でということになると正直言って億劫である。あたらしい手法に慣れるまでに使うエネルギーがモッタイナイ!!
それは、この本に一貫している「ラクして」精神に反する。
しかし、こちらの方が有効そうだという手法をみつけたら、それを採用することはやぶさかではない。
この本には繰り返し「知的生産」に有効な㊙テクニックが出てくる。
16個もである。
ネーミングもなかなかすばらしい!!巻末にまとめてくれているのであげてみよう。(同書P362~363)
【本書で取り上げた16のキーワード】
「一望法」
「落ち穂拾い法」
「コピー&ペースト法」
「三脚法」
「隙間法」
「棚上げ法」
「橋渡し法」
「バッファー法」
「ひと言法」
「不完全法」
「目的優先法」
「要素分解法」
「呼び水法」
「ラベル法」
「枠組み法」
「割り算法」
「それならすでにやっているよ」と言うのもいくつかはあった。それでも、あらためて「○○法」と言われるとナットクだった。(゜゜)(。。)(゜゜)(。。)ウンウン
そして、「これでよかったんだ!!」と自信をもつこともできた。アリガタイ!!
反対に「これはいい!!気がつかなかった。使わせてもらおう!!」というのもあった。
時代にあわせて、また自分流にカスタマイズして採用させてもらおうと思う。
このように「これまで」の自分の知的生産術を再吟味するのに最適の書である。
▼最後にいこう。
(3)「最初の一行目がなかなか書き出せない人」に有効!!
「最初の一行目がなかなか書き出せない人」と聞いてドキッとした。(^_^;)
私のことかと思った。心当たり大ありだった。
この歳になってもこの病はなかなか克服できていなかった。
そんな私にこの本は病克服のヒントと勇気をくれる本だった。
著者は「おわりに」のなかで次のように語っていた。
本書はまず、膨大な資料と格闘して悩んでいる人たちへ向けてアドバイスした。さらに、準備はできているのに一行目がなかなか書き出せないという人にも、「ラクな書き出し」のコツを指南した。いずれの場合も、目的を先行させることによって、状況は一変することをまず知って欲しい。 そして、「アウトプット優先主義」に変えれば、生産性が上がるだけでなく、部屋まで片づくというオマケがついてくる。 しかも片づいたところから、人生の次のステージが見えてくるのである。(同書P360より)
さあ、残りの人生の次なるステージのためにも。
<オマケ> 蛇足的になるが、これ以外のお薦めポイントというか、いたく共感できることがいくつかあった。
どうしてもあげてみたくなったのであげてみる。
【その1】
本書の主要メッセージの一つに「デジタルとの賢いつきあいかたと逃げかた」があるが、そのポイントは「新しいツールに溺れない」である。(同書P8より)
【その2】
私は今も昔も、メインのスケジュール管理は紙の手帳だ。(中略)よって、スケジュールの詳細はすべてアナログの手帳に書き込み、一元管理をする。(同書P82より)
【その3】
私の経験では、実際に使ってみて効果があるテクニックは以下の二つであり、しかも二つだけで十分だと断言したい。
①パソコンについているいちばん簡便な検索機能で、全データを瞬時に文字検索できる。
②保存してある情報はすべてデータベースとして活用できる。これらを用いてコピー&ペーストすることで、次のアウトプットを簡単に行なうことができる。
(同書P125より)
【その4】
この戦略はまったく正しかった。だからそれ以降もいったん使いこなしたソフトはよほどのことがないかぎり、とことん使ってみる。
そのほうが、そのソフトのもつ潜在能力に習熟することができるし、何よりも、乗り換えにともなうタイムロスを激減させることができるからだ。(同書P127より)
【その5】
このように、不可能なことは早々に見切りをつけ、よい面を見るのがいちばんだ。
では、日本式の細かなコミュニケーションは今後不要かというと、それも違う。オンラインで切り捨てられた部分を、いかに補完するか考えなくてはならない。(同書P230より)
実はまだまだある。しかし、これ以上続ければ蛇足的がほんとうに「蛇足」になってしまう。「蛇足」こそが、この本の趣旨にもっとも反するものである。
だから、これぐらいにしておこう。
ぜひ、ご一読を!!
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コメント
おはようございます。
防災伝道師の別称を持つ鎌田先生の著書ですね。京大では人気No.1の先生で私と同い年です。防災分野に限らず知的生産や人生論迄をカバーする広範で強靱な知性には脱帽です。
いわゆる知的生産本は面白いですね。一流芸人の楽屋裏を覗くような気分です。若い頃梅棹忠夫や板坂元、渡部昇一の各先生の本を読んで真似しようとしましたが、一流どころ真似はなかなかできません。結局「カニは自分の大きさに合わせて穴を掘る」、つまり我流で落ち着いてしまっています。(^^;
投稿: sakamoto | 2021/04/18 08:31
sakamotoさん
どうもコメントありがとうございます。
>真似しようとしましたが、一流どころ真似はなかなかできません。結局「カニは自分の大きさに合わせて穴を掘る」、つまり我流で落ち着いてしまっています。(^^;
同感です!!
けっきょく落ち着くところは、自分流ですね。
鎌田氏の「知的生産術」は、いろいろ自分流にカスタマイズできやすいところですね。
また、今日的な課題にもふれているところがアリガタイです。
またこんなことについても会って語り合いたいですね。
投稿: 楠田 純一 | 2021/04/18 10:12