「寺田物理学」とは!?(3) #寺田物理学 #traday #寅の日 #寺田寅彦 #石原純
▼寅彦は「雲見」超名人でもある!!
それを強く思わせてくれる一文があった。(「春六題(六)」青空文庫より)
日本の春は太平洋から来る。
ある日二階の縁側に立って南から西の空に浮かぶ雲をながめていた。上層の風は西から東へ流れているらしく、それが地形の影響を受けて上方に吹きあがる所には雲ができてそこに固定しへばりついているらしかった。磁石とコンパスでこれらの雲のおおよその方角と高度を測って、そして雲の高さを仮定して算出したその位置を地図の上に当たってみると、西は甲武信岳(こぶしだけ)から富士(ふじ)箱根(はこね)や伊豆(いず)の連山の上にかかった雲を一つ一つ指摘する事ができた。箱根の峠を越した後再び丹沢山(たんざわやま)大山(おおやま)の影響で吹き上がる風はねずみ色の厚みのある雲をかもしてそれが旗のように斜めになびいていた。南のほうには相模(さがみ)半島から房総(ぼうそう)半島の山々の影響もそれと認められるように思った。
なんと、「磁石」「コンパス」「地図」まで持ち出しての「雲見」!!
感服する!!
▼「寺田物理学」続けよう。
参考にさせてもらうのは続けて
●「寺田物理學の特質」(石原 純)(『思想』岩波書店 特輯「寺田寅彦追悼號」昭和11年3月号より)
である。引用をつづけさせてもらおう。
…そこに寺田さんの随筆に一種の特色が形作られるやうになつたのである。固より寺田さんは単なる科学者でなくて、同時に立派な芸術家でもあった。つまり芸術を芸術として味ひ、且つ自分で創作することも可能な人であった。併し寺田さんの多くの随筆に特色を與へてゐるところの、「科学者に固有な」見方、考え方は、種々の事象に対する鋭い分析にあるので、人々はそこに示された独特な、併し立派な理屈に感心するのだった。それはいつも世間の常識よりは一歩及至数歩深く踏み込んでゐる。そして人々はその意表外な観察になる程と肯くのであった。この分析がすなわち寺田物理学の方法なのであって、寺田さんはその随筆に於てこの方法をその儘、科学的研究に於けるよりももっと広い諸般の問題に応用したのに外ならない。
▼ここで翻って、考えてみよう。
寅彦はどんなことを対象に科学研究をしたのだろう?
またどんな随筆を書きのこしてくれているのだろう?これについてもくわしく石原純は書いてくれていた。
その一部をあげてみよう。
【寺田物理学の科学研究】
・植物の凍結
・空中電気と植物生長との関係や、植物に対する烟害
・網糸の腐敗や浸水の問題
・網に対する水の抵抗
・海鳴り
・砂浜の漣痕
・「氷の表面に現われる扇形の模様」
・ガスの爆発に関する研究
・渦巻きの実験
・割れ目の研究
・墨汁に関する実験
・液面に浮かんだ粒子層の変形
・砂塊の力学
・火災の物理学
・地震津波に伴う発光現象
・沿面燃焼
・紫藤の種子のはじける機構
・金平糖の角の発生
・炭團の燃え方
・麦畑の弧線模様
・火花及びネオンサインに対する錯覚
・金盥とコップとの摩擦による音響
・雨に濡れた舗道の滑り
・リヒテンベルグ像
・リーゼガングの現象及び類似の諸現象
等々
統計的考察を加えたものとして、またいっぱい例があがっている。
今さらのごとく驚くばかりである。
【寺田物理学に関する随筆】
・「日常身辺の物理的諸問題」
・「量的と質的と統計的と」
・「物理学圏外の物理的現象」
・「物質群として見た動物群」
・「自然界の縞模様」
・「鐘に釁る」
・「北氷洋の氷の割れる音」
等々をあげておられる。アリガタイことに私たちは今すぐ青空文庫で読むことができる。
オンライン「寅の日」では、これらを繰り返し読んできた。まだの随筆もあがっていた。
これらはぜひこれから読みたいものである。
▼最後にどうしても引用させてもらいたい部分があった。
それは、寅彦の随筆で言えば「レーリー卿(Lord Rayleigh)」(青空文庫より)にあった。
その終りにジェー・ジェー・タムソンの言葉を抄録してあるが、「レーリーの仕事はほとんど物理学全般にわたっていて、何が専門であったかと聞かれると返答に困る。また理論家か実験家かと聞かれれば、そのおのおのであり、またすべてであったと答える外はない。」 「彼の論文を読むと、研究の結果の美しさに打たれるばかりでなく、明晰な洞察力で問題の新しい方面へ切り込んで行く手際の鮮やかさに心を引かれる。」などと云うのは、その儘之を寺田さんの上に移して言うことができると思われる。尚ほタムソンの「優れた科学者のうちに、一つの問題に対する『最初の言葉』を云う人と、『最後の言葉』を述べる人とあったとしたら、レーリーは多分後者に属したかもしれない。」と云ふのを引用して、次に「併し彼はまたかなり多く「最初の言葉」も云っているように思われる」と附言してあるが、恐らく寺田さん自身はこの「最初の言葉」を云ふことに於て多大の意味を認め、そして寺田物理学の特質もまたそれにあるのを暗示してしてゐられるらしく感ぜられる。
「最初の言葉」=寺田物理学の特質!!
「寺田物理学」を高く評価し、寅彦をこよなく敬愛した石原純ならでは言葉である。
(つづく)
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