【お薦め本】『ふだん着の寺田寅彦』(池内 了著 平凡社)
▼12日に一回ずつ寺田寅彦の作品(随筆)を読むオンライン「寅の日」をはじめて8年が過ぎ、今、9年目である。
通算回数は、次回(2020/07/10)で第258回目である。
自分でも驚いてしまう回数である。
ひとりの人間の書いたものを、こんなに長く読み続けたのは、人生はじめての体験だった。はじめた当初は面白くなくなったらすぐやめようと思っていた。
ところが、続けてみると様子が変わってきたのだ。
「にわか寅彦ファン」は、やがて「追っかけ寅彦ファン」になっていったのだ!!
読めば読むほど寅彦が面白くなっていった!!
寅彦はいつ読んでも驚くほど今日的だった!!
なぜだろう!?
寺田寅彦の魅力はどこに!?
▼このオンライン「寅の日」をより楽しく続けていくために、とても参考になりそうな本に出会った。それが、今回の【お薦め本】である。
◆【お薦め本】『ふだん着の寺田寅彦』(池内 了著 平凡社 2020.05.20)
お薦めポイントのいっぱいあるとても面白い本だ!!
いつものようにはじめにお薦めポイントを3つに絞り先にあげておく。
(1)寺田寅彦の作品(随筆)をより深く、豊かに楽しめるようになる!!
(2)愛すべき人間「寺田寅彦」像がまるごと見えてくる!!
(3)寺田寅彦を「活用」するヒントがここにある!!
▼ひとつずつ、少しだけ詳細に
(1)寺田寅彦の作品(随筆)をより深く、豊かに楽しめるようになる!!
実は、オンライン「寅の日」をはじめたころ、「何から読んでいけばよいか?」を考える上でとても参考にした本があった。それがこの本と同著者・池内 了氏の
●『寺田寅彦と現代~等身大の科学を求めて~』(池内了著 みすず書房 2005.01.21)
である。「等身大の科学」というフレーズに惹かれていたこともあり、興味深く読み、さらにオンライン「寅の日」で読む随筆の決定にずいぶん参考にさせてもらった。言わば、オンライン「寅の日」ガイドブックとして利用させてもらったのである。深謝。
さて、この本である。この本の趣旨を著者自身に語ってもらおう。それが最高の紹介のような気がしてきた。
それは、最後の最後にあった。
本書を手にして、私が寅彦への悪口を書いたと誤解してはならない。人間はさまざまの側面を持っており、寺田寅彦にも欠点や限界があり、悪癖を止められずいたことも知った上で、彼が残した仕事を概観すればまた違った景色が見えてくるのではないだろうか。褒め上げるばかりが寺田寅彦を評価することではない。人間的な弱点、時代が課した制約、自分の好悪に左右された側面も含めて、批判的に見、その上で全体像を把握することこそが寺田寅彦を真に理解することに繋がるのである。「寺田寅彦は謹厳実直で文理融合の偉大な先覚者とばかり思っていたが、こんなに多様な顔があったのか、見直した」と思ってくだされば、本書を書いた甲斐があったというものである。(同書P283より)
ここにすべてが語ってあった。
さらに、「これから」のオンライン「寅の日」にひきつけて言えば、科学者「寺田寅彦」の書いたものを、より深く、豊かに読み解くことができる気がしてくるのだった。
寅彦のほんとうの魅力とは、実はこのあたりに起因しているのかも知れない。
(2)愛すべき人間「寺田寅彦」像がまるごと見えてくる!!
「甘い物とコーヒー好きの寅彦」
「タバコを止めない寅彦」
「癇癪持ちの寅彦」
「心配性の寅彦」
「厄年の寅彦」
… 等々、読み進めていくとその「こだわり」ぶりにあらためて驚く。そのひとつひとつがどれも半端でなかった!!
しかし、不思議と「なんだそんな人間だったのか」と落胆するようなことはまったくなかった。
むしろ、「やっぱり…」と、笑ってしまい、納得し共感までしてしまうのだった。
妙に人間「寺田寅彦」が愛おしくすら思えてくるのだった。
これは8年間に渡るオンライン「寅の日」でのつき合いの成果だろうか!?
変な話だが、私は自分の親族以外の墓所で、寅彦の墓所ほど頻繁に参ったことがない。
いつのまにやらどこか、愛すべき身内意識まで生まれているのかもしれない。
なかでも印象的だった「こだわり」は
「心配性の寅彦」(寅彦なりの子どもたちへの愛情表現なのだろうか!?それにしても…)
「医者嫌いの寅彦」(科学者・寅彦の言動とは思えぬ矛盾、しかし…)
ここで、たいへん興味深い著者の仮説をあげておられた。
「寅彦の業病の由来?…… X線回折実験」(同書P204より)
これは一読に値する!!
ここでも、やっぱり著者のコトバを借りよう。
これまで神棚に祀っていた、文理双方に卓越した寅彦の厳めしい大判の写真から、アルバムに収められた、数多くのふだん着のスナップ写真に目を移すと、人間味に富み矛盾した言動も辞さなかった寺田寅彦の異なった実像が浮かび上がってくるのではないだろうか。読者も、寅彦ワールドの豊かさを味わっていただければ幸いである。(同書P6より)
▼最後に行く。
(3)寺田寅彦を「活用」するヒントがここにある!!
寺田寅彦を「活用」する。これは鎌田浩毅氏(京大 火山学・地球科学)のコトバである。
アウトリーチに関する私の修行は今も進行中であり、寺田が残してくれた試行錯誤の記録は知恵袋となっている。彼の専門と思想を引き継ぐ者として、これからも寺田寅彦を「活用」していきたいと思う。」(「寺田寅彦を「活用」する」鎌田浩毅『科学者の目、科学の芽』(岩波書店)P174より)
このコトバが気に入ってしまった。
私には特に寅彦と重なる専門分野があるわけではないし、また寺田寅彦研究を本格的に語るほどの知識も力量もない。
単なる「にわか寅彦ファン」にすぎない。(最近は少し「追っかけ寅彦ファン」に進化したかも…)
そんな私にも私なりに寺田寅彦を「活用」したいという願いがあった。
どんな状況のなかで、どんな思いを持って、85年以上の時空を越えて、現在もなお「きわめて今日的!!」と響いてくるコトバを発し続けたのか!?
それを知るには、まるごと「寺田寅彦」を理解することが必須だ。
「こんなとき、寅彦ならどう考えただろう?」
「こんなとき、寅彦ならどうしただろう?」
と寅彦を「活用」しようとするとき、役に立つヒントがこの本にはいっぱいある!!
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