【お薦め本】『教科書に掲載された 寺田寅彦作品を読む』(山田功著 リーブル出版)
▼2012年4月にはじめたオンライン「寅の日」は、9年目の歩みに入ってはや一ヶ月がすぎた。
一度も休むことなく、昨日(2020/04/29)で第252回目であった。
この間に読んだ寺田寅彦の随筆はついに100編に達した。
はじめた当初は「面白くなくなったら、すぐやめよう」と思っていた。
ところが、読む度に 益々面白くなっていった。
寅彦が亡くなってからでも、はや85年もの歳月が過ぎていた。
ところが読む度に驚いたことがある。
どの随筆もが、たった今書かれたように新鮮で今日的だった!!
そして、なにより面白かった!!
▼ 元々「にわか寅彦ファン」だった私は、やっとここまで来て寅彦の随筆の面白さを少し人に語れるところまできたかも知れないと自負していた。
そんな勝手な思いをうちのめされるような本に出会った!!
この本が「寅彦のほんとうの面白さはそんなものでない。まだまだあるよ…」と教えてくれているようだった。
正直言ってちょっとショックだったが、それ以上にうれしかった。
その本が、今回の【お薦め本】だ。
【お薦め本】『教科書に掲載された 寺田寅彦作品を読む』(山田功著 リーブル出版 2020.4.15)
(※「寺田寅彦記念館友の会」に連絡すれば入手可能!!)
著者はいつもお世話になっている「寺田寅彦記念館友の会」の副会長の山田功先生だ。
「にわか寅彦ファン」の私は「友の会」のみなさんにはこれまでずっとたくさん教えられてきたが、今回のこの本にもいっぱいはじめて知ることがあった!!
お薦めポイントもいっぱいあるが、いつものように3つにしぼる。
(1)学生にもどって、寅彦作品を深く味わうことができる!!
(2)寅彦作品教科書掲載の歴史がわかる!!
(3)寅彦作品のバックグラウンドを知り、より楽しく読める!!
▼では3つのポイント少しだけ詳しく。
(1)学生にもどって、寅彦作品を深く味わうことができる!!
私の記憶が正しければ、私が最初に出会った寅彦の作品は現代国語の教科書に掲載された「茶わんの湯」だったと思う。(昭和40年代前半、半世紀以上前の話)
変な話だが、内容よりも肖像画(写真?)をよくおぼえている。今から思えば切手になった「あれ」だったと思う。
もう今は、教科書では出会えないようだ。残念である。
この本では、5つの作品に再会できる。アリガタイ!!
・「新星」
・「凌霄花」
・「森の絵」
・「藤の実」
・「たぬきの腹つづみ」(ローマ字)
うれしいことに、教科書に記載された当時と同じように
○(注)があり読み方、詳しい説明がある!!
○ 段落にわけてあり、著者のくわしい解説がある!!それがスバラシイ\(^O^)/
○ 当時のままの本文前の解説では、「取り上げのねらい」などが記載されている。
○ 「学習の手引き」までついている!!
うれしいかぎりである!!
ダカラ
だから私たちは、学生にもどった気分になって、時空を越えて寅彦の作品に再会できるのである。
これ以上語れば「蛇足」になると思いながらも語らずにおれない。
○ 段落にわけてあり、著者のくわしい解説がある!!それがスバラシイ\(^O^)/
これが本書を最高に魅力的なものにしている。
少しだけ例をあげさせてもらう。
「森の絵」についてである。
さてこの絵を寅彦は、とても大切にしてきたが今はない。作者も分からないとある。果たして実際の絵はどんなふうに描かれているのだろうか。バルビゾン派の画家かも知れないと思い、ミレーやコローの画集を開いてみたし、関連の展覧会にも出掛けたが、それだと思われる作品には出会わなかった。ならば、この文章から「森の絵」を再現したらどうだろかと考えた。残念ながら画才のない私にはできない仕事である。そこで、岐阜県在住の風景画家森本彰氏にお願いをした。このやっかいな願いを画家は、快く引き受けてくださった。それが、ここに掲載した絵である。文章を丹念に読み取り、「森の絵」を再現してくださったのである。この絵を見ていると、言葉では言い尽くせなかった森全体の雰囲気が漂ってくるのである。(同書 p82より)
なんというこだわりだ!!単なる通り一遍の「解説」ではないのだ。
もうひとつだけ例をあげさせてもらおう。
「藤の実」にあった。
藤の実がはぜたときの音とは、いったいどんな音だろうか。私も確かめたくなった。ある年の十一月中頃、藤の実を捜すことにした。大きな公園の藤棚を見に行くと、手入れがされていて藤の実はない。近くの家に藤棚があることを思い出し出かけた。幸い、いくつかの藤の実が残っていた。それを貰い、部屋にひもを張りつるした。十二月中頃、部屋で本を読んでいると、突然「びしっ」と乾いた短い音がし、藤の実がはぜた。その時、体がピクリと緊張した。そしてタネは部屋のドアに当たり床に落ちた。これが寅彦が体験した藤の実のはぜる音なのかと納得したのである。それだけのことだが、作品「藤の実」がぐっと自分に近づき、いっそう深い関心が持てたのである。(同書 p105より)
これは、ほんのさわりにすぎない。このようにに深い読み解きがつづくのである。
これらによって、
私たちは、寅彦の作品に再会するだけでなく、深く味わうことができるのである。
もう一度、言おう アリガタイ!!
(2)寅彦作品教科書掲載の歴史がわかる!!
この本は、寺田寅彦研究においても貴重な一冊である。
著者の長年にわたる調査研究によってまとめられた報告があがっている。
【教科書に掲載された寅彦作品の一覧】が表にまとめられていた。
■大正時代
■昭和初期(第二次世界大戦前まで)
■昭和戦後時代
と分けて「掲載年」「作品名」「掲載冊数」「備考」が記載されていた。
なんと多くの寅彦の作品が掲載されていたのだろう!!
感激することしきりである。
これを見ていると、いかに寅彦の作品が時代を超えて読み継がれてきたかがわかる。
なぜ、寺田寅彦だったのだろう!?
著者のコトバをかりよう。
寅彦の言葉に「ねえ君、不思議だと思いませんか」というのがある。すべての科学の始まりはここにある。この不思議を解き明かしてゆくことが科学である。そんなことを寅彦の随筆を通して、学んでいくのである。(同書p21より)
▼最後に行こう。
(3)寅彦作品のバックグラウンドを知り、より楽しく読める!!
ここも著者のコトバをかりよう。
寅彦の作品のアンソロジーは多々出版されているが、丁寧な解説を加えた本は少ない。自由に読めばよいのであるが、できる限りの調査をし、作品に直接表れていない背景を紹介して、それをもとに作品を読んでもらったらどうかと考えた。それは遅々として進まぬ仕事であったが、ようやく代表的五作品をここに紹介することができた。
寺田寅彦の作品を学校で学んだ方も、学ばなかった方もこれをきっかけに、寺田寅彦随筆集を手に取ってくだされば、著者の喜びとするところである。(同書p142より)
著者の意図はみごとに成功している!!
この本を読んで、これからのオンライン「寅の日」が益々楽しみになってきた。
著者の手法を学ぶこともかねて、6月・7月のオンライン「寅の日」では、ここに取り上げられた五作品を読むこととしたい。
詳細については後日案内させてもらう。
オンライン「寅の日」参加者はぜひご一読を!!
もちろんそれだけでない寅彦に興味のあるすべての人に!!
とりわけ現役の「学生」さんにもお薦めである!!
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コメント
楠田様
寺田寅彦記念館友の会の山田功と申します。
私の拙い本を早速お読みくださり、ありがとうございます。
そのうえ、過分なる紹介をいただき、恐縮しております。
寅彦研究家といわれる評論家や研究者とは違い、教育現場におりました者の眼で、書いてみました。
大変な勉強家の楠田様には、いろいろ教えていただきたいと思います。よろしくお願いします。
投稿: 山田功 | 2020/05/03 16:38
山田功 様
いつも「友の会」でお世話になっています。
著者自らコメントいただきとても光栄です。
とてもうれしく感激しております。
すばらしい本の著作をありがとうございました。とても面白く勉強になりました。
blogにも少し書きましたが、6月・7月のオンライン「寅の日」では、この本の5作品を取り上げ読んでみるつもりでいます。
またアドバイス、ご意見いただくとうれしいです。
今後ともどうぞよろしくお願いします。
投稿: 楠田 純一 | 2020/05/04 05:56