【お薦め本】『クマムシ調査隊、南極を行く!』 (鈴木 忠 著 岩波ジュニア新書 )
▼私は、この10数年のあいだに自分のこれまでの「生きもの観」を決定的に変えてしまうような驚異の生きものと3種類と出会った。
クマムシ・コウガイビル・ゲホウグモである。それも3種類とも遠く離れた場所ではなく最も身近な我が家の庭で出会ったのである。その事実が驚きを倍加してくれていた。
クマムシへの興味のはじまりは、二冊の本との出会いからはじまった。その二冊とは
・『クマムシを飼うには』(鈴木忠・森山和道著 地人書館)
・『クマムシ?!小さな怪物』(鈴木忠著 岩波科学ライブラリー)
である。2008年の夏の終りである。この本に出会ったときのことをblogに記録していた。
二冊とも実に面白かった。私は、すっかりクマムシに夢中になってしまった。この世界最強の生きものが、私の足元にも暮らしていると思うとなんともわくわくしてきた。どうしても、私自身の目で確かめたいと思った。
しかし、じっくりと観察する時間もないまま時が過ぎていった。
●2010年夏 【理科の部屋】オフ(神戸)で、理科ハウスさんにその場で採集したクマムシを見せてもらった。深謝<(_ _)>
●2011年夏 校庭・我が家の庭でも、アタリマエにオニクマムシをみつけることができるようになった。
●2012年 夏 『クマムシはあなたの近くにもきっといる!!』と呼びかけていた。
呼びかけてもなかなかすぐには信用してもらえなかった。
実際にさがすのに時間がかかり、「これがクマムシですよ!!」と即座に見せることができないことにジレンマを覚えていた。
そんなとき、究極の観察方法を思いついた!!
「乾眠」を利用するのである。一度採集したクマムシを「乾眠」させておき、「さあ、観察だ!!」というとき、水をかけるのである。それこそ、数分もすれば、ゴソゴソ動き始めるである。
●2012 年 秋 クマムシが「乾眠」から目覚める瞬間を見た!!
究極の「乾眠」観察法にたどり着いてから、私のクマムシ熱は少し冷めたかに見えた。
実はここまでが前置きだ。いやはやなんとも長い長い前置きである。(^^ゞポリポリ
▼先日、偶然に、私にとってはじめてのクマムシ本二冊の著者である鈴木忠さんが本を出されたと知った。それも南極にまでクマムシを追っかけられての本だという。見逃すわけにはいかなかった。
さっそく入手してみた。
【お薦め本】『クマムシ調査隊、南極を行く!』 (鈴木 忠 著 岩波ジュニア新書 2019.6.20 )
ひと言で言えば「うまい!!」だ。
11年ぶりに出会う鈴木忠さん文章はやっぱり冴えていた!!
いかにクマムシのこととは言え、「調査報告」などと最初は思っていた。まったくちがっていた!!
読み始めたら滅茶苦茶面白いのだ!!
またまた長くならない間にいつものお薦めポイントは3つをあげておこう。
(1) 南極クマムシ調査隊の一員にしてもらった気分になる!!
(2)「記録」することの面白さを教えてくれている!!
(3) 仲間と共に「研究」することの愉しさを語っている!!
▼今回のお薦めポイント3つは、深く関係しツナガッテイタ!!まず
(1) 南極クマムシ調査隊の一員にしてもらった気分になる!!
ちょっと後ろ向きの話から始めるが、私の年齢から判断しても、今から南極大陸にでかけることは、いくら奇跡が起きてもまずないだろう。たしかに、人の話を聞いて行ってみたいと思ったこともあったが…。
しかし、この本を読んでいるといつしか夢の南極に出かけ、南極クマムシ調査隊の一員に加えていただいた気分になるのだ。
不思議だ!?なんでそんな気分になったのだろう?
どんな「しかけ」「からくり」になっているのだろう?その謎解きをするのが、この本を紹介する私自身のひとつの目的でもある。
「おもな登場生物」は、最初に紹介がある。
「ツジモト隊員」「ナカイ君」「ヒラノさん」「ミウラさん」「私(スズキさん)」「クマムシ」 今このように書き写していて気づいた。 ずっと不思議に思っていたひとつの謎解きができた!!
なんで名前がカタカナ表記に統一されているのか?(゜_。)?(。_゜)?
「おもな登場人物」でなく「登場生物」なんだ!!
著者スズキさんにとって、みんなが「クマムシ」と同格なんである。「クマムシ」同様に観察される側に回っていたのだ。
こんなユーモアたっぷりな「しかけ」がいたるところにあった。
本文のなかに名前が出てくる度に、顔写真付きで紹介されている「登場生物」のページをひらいて確認していると、いつしか「登場生物」は旧知の友だちのように思えてくるから不思議だった。
「あのツジモトさんが言うのだから…」
「きっとあのナカイ君が助けてくれる!!」
「ミウラさんならああ言っていてても配慮してくれる」
等々
いつの間にやら、気づけば勝手に夢の南極へ行き、クマムシ調査隊の一員にしてもらっていた。
ポンコツの私の場合はどこまでも仮想体験を楽しむだけであるが、若い読者の場合であれば、「未来」をシュミレーションをしてうんと楽しめるはずだ。ジュニア新書にあげているのはそんな意味もあるのだろう。
(2)「記録」することの面白さを教えてくれている!!
ログ(log)には元々「航海日誌」という意味があると聞いたことがある。語源は「丸太(ログ)」を流して、船の速さを測ったところからきているとも。(Web log=blogだとblogはじめたころ教えてもらった。)
これはまさに南極「航海日誌」ログだった!!
気象情報(風向・風速・気温・気圧・天気)、毎回の食事メニュー、各自の健康状況、雑談、トイレ、等々。なんでも「記録」されていた。特に興味深かったのは毎回の食事メニーの話だ。
誰がどんな腕前の持ち主か、プロの「南極料理人」は!?
一見どうでもいいような「記録」がとても、この本をとても面白くしていた。
忘れならない「記録」もあった。
それはスズキさんと、ユリちゃん(娘さん)+サナエさんのメールのやりとりの「記録」だ。絶妙のタイミングでメールの「記録」が挟みこまれていた。
状況説明するのに「メール」を利用するなどほんとうにうまい!!
それから忘れてならない「記録」は写真だ。
表紙には写真点数「157点!!」とアル。膨大な量である。すごいのは量だけではない、本文ストリーにあわせてイメージをリアルに膨らませてくれるているのだ。(口絵、本文挿入とあちこちに散らばっているのはどうして!?最後にはこれも楽しみになったので、これも「しかけ」のひとつ?)
この本を書く大元になったスズキさんの「日誌」の現物がぜひ見てみたい!!「写真集」も!!
「記録」をツナグとこんな面白い物語になるだ!!
▼またまた「蛇足」が長くなってしまっている。
(3) 仲間と共に「研究」することの愉しさを語っている!!
なんか肝心の南極のクマムシのことについてあまりふれなかったが、「クマムシ」研究についても、とてもくわしくわかりやすく語ってあった。南極の「クマムシ」研究の歴史についてもたいへん興味深い話が紹介されていた!!
スズキさんがやっと南極産のオニクマムシに出会ったときのことも熱く語られていた。
あらためてスズキさんのクマムシ愛に感動した!!
読んでいるうちに、昔懐かしい学生時代の「研究室」のことを思い出した。
この本を読んだ若い読者のなかからツジモトさんやナカイ君そしてスズキさんの後を継ぐ
「 研究者」がきっとうまれるのだろう。
この夏、久しぶりにクマムシ熱が再燃するかも知れない。そんな予感がしてきた。
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