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【お薦め本】『気象予報と防災ー予報官の道』(永澤義嗣著 中公新書)

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「大気の物理学実験室」!!
 私は、けっこうこの呼び方が気に入っていた。
 自分の日々暮らす空間をこう呼ぶことに、毎日大好きな「実験」をやっているような気分になれるからだ。
 この実験室は宇宙空間から見るとおそろしく薄っぺらであった。
 その薄っぺらな空間で、日々刻々異なる「大気の物理学」実験がおこなわれていた。
 
 実験の様子は「雲見」とよんで観察した。
 そして、なんとアリガタイことに実験結果のデータは「アメダス福崎」に記録されていた。
 昨日もいつもと同じように、「実験」が続くのだった。

▼この「実験」を予想するプロの書いた本に出会った。
 出会った本とは

◆【お薦め本】『気象予報と防災ー予報官の道』(永澤義嗣著 中公新書 2018.12.25)

である。タイトルからしてなかなか面白そうな本だ。
  いつの頃からだろうか、私は本を読む前に変なことをするのが習慣となってしまっていた。
 今回もそれをやってしまった。
 「著者は何歳ぐらいなんだろう?」と奥付の著者紹介の欄を見た。
 
 著者・永澤義嗣氏は、「1952年(昭和27年)札幌市生まれ」と書いてあった。私は1951年(昭和26年)生まれだから、私の方が一歳年上である。
 いずれにしても同時代人だ。同じ時代の空気を吸って今日まで生きてきた。
 もうそれだけで他人事と思えなくなり、親近感わいてくるのだった!!
 
 そんな著者が言っていた。

 本書は、気象を愛し、気象に情熱を注ぎ、社会に貢献することを願って気象に人生を捧げたある予報官の決算書である。(「おわりに」同書p265 より)

 勝手に身内意識をもちはじめた著者がこう言い切っていた。【お薦め本】にあげないわけにはいかないだろう。
 だからと言って、シロウトの下手な紹介は失礼になるかもしれない。
 読んでから少し躊躇していた。
 決めた!! 自分のための「一次感想文」ということであげておく。

 とりあえずいつものようにお薦めポイント3つをあげておく。

(1) ツボを押さえた解説!!

(2) 伝える側からの等身大情報が面白い!!

(3) 防災・減災に関わるすべての人の必読書!!
 

▼では少しくわしく書いてみる。

(1) ツボを押さえた解説!!

我々は地球の中に住んでいる
この小見出しは間違いではない。我々は、決して、地球の「上」に住んでいるのではないのだ。なぜなら、大気圏も地球の一部だから。(同書p3より)
 

 と第一章1「地球大気の構造」ははじまった。
 このこだわりが気に入った。
 うまい!! と思った。ツボを心得ていると思った。
 私のようなシロウトがいつも誤解してしまう「落とし穴」がここにあった。
 私たちは大気の海の底で暮らしている。
 そして、その大気の海はおそろしく浅い。(大気の層は薄い)
 「大気の物理学実験室」は薄っぺらいのだ!!
 多くの気象解説本はこのアタリマエをすんなりとやりすごしてしまっていた。

 この本は違っていた。そのこだわりは徹底していた。

 

よくいわれるように、地球をリンゴにたとえると、大気はリンゴの皮ほどしかない。(同書p3より)

 
そのリンゴの皮ほどの大気圏の中で起きる現象が「気象」である。

 

リンゴの皮にもたとえられる大気圏だが、驚くなかれ、我々になじみの深い「天気」を決定する雲や雨・雪などの気象現象の大部分は、薄っぺらな大気圏の最下部10キロメートルそこそこの「対流圏」で起きるのだ。(同書p4より)

 我々の生活に大きな影響を与える「天気」とよばれるものが、薄っぺらな地球大気の最下部の厚さ10キロメートルそこそこの対流圏で起きているという事実を、我々は果たしてどれだけ実感しているだろうか。(中略)しかし、10キロメートルを水平にとれば、せいぜい隣の町に出かけるほどの距離で、時速60キロメートルの自動車で10分間も走れば着いてしまう。このように、天気は鉛直方向にほとんど厚みのない、薄皮のような対流圏に生じるしわのようなものだ。そのしわが、実は一筋縄ではいかないむずかしさと、面白さをもっている(同書p5より)

 このアタリマエ!!このアタリマエにここまでこだわるこの本はホンモノ!!
 ここにこそ「天気」理解のツボがあると私は長年思っていた。

 他にツボを押さえた説明が随所に出てきた。 
 たとえば 
・ 熱帯域から偏西風帯への“帰化” (同書p15)
・ 時間断面図 左から右へのわけは (同書p31)

ナルホド(゜゜)(。。)(゜゜)(。。)ウンウン
 と膝をうつことしきりである。

 また

 だれもが知っている天気ことわざ(天気俚諺)として、「夕焼けは晴れ」がある。驚くなかれ、キリスト教の聖書に出てくる。
 「あなたたちは、夕方には『夕焼けは晴れだ』と言い、朝には『朝焼けで雲が低いから、今日は嵐だ』と言う」(マタイによる福音書16章2~3節、新共同役)(同書p33より)

 からはじまる「第三章 天気予報発展のあしどり」は特に面白い。

(2) 伝える側からの等身大情報が面白い!!
「気象予報官」と聞いて、どこか「雲の上の人」とまで言わなくても「別世界の人」という感である。
そんな人の楽屋裏話はとても面白い。野次馬的にも興味津々だ。
  「夜明け前が最も忙しい」 
  「気象予報士の違い」   
「予報官の心掛け」
  「魅力のない3割打者」等々の話が面白い。
 たとえばこんな感じだ!!


  平均的には高打率であるだが、肝心ときにあまり期待できない。本項ではそれを野球になぞらえて「魅力のない3割打者」と表現してみた。そこに介入して魅力を付加するのが予報官の役割である。知識と経験に裏打ちされた予報官が積極的に関与しホームランやタイムリーヒット、逆転打を放ってこそ、予報官の存在意義がある。(同書p96より)

 このように随所にみられる予報官としての「誇り」「責任感」がまたスバラシイ!!

 また、その道のプロならではの天気の見方が面白い。
 現在、どのようにして「天気予報」がつくられるかの話は、「天気予報」を受信する側の人間としてもぜひ知っておきたいこと満載だ。
 ここを読んでからTVの「天気予報」を見たら、ナルホド!!と思った。
 いちばん私が感心し納得したのは、「天気予報の原理」だった。
 

 天気予報の原理は、「現在の状態を知り、それに何らかの法則を適用して将来の状態を推し量る」ことであると前章で繰り返し述べた。現在の状態を知ることは天気予報の第一歩である。(同書p49より)

このアタリマエ!! 
納得デアル。(゜゜)(。。)(゜゜)(。。)ウンウン

「ハズレとズレ」(同書p71)
も大納得の話だ!!

「用語とのつきあい」(同書P111より)
 用語を発信する側からの説明は自ずから説得力をもつ。どんな経緯でその用語が使われ出したのか。くわしく語られている!!

 ひょっとしたここが本書のいちばんのウリかも知れない。
 実際に手にとってぜひたしかめてもらいたい。 

▼最後に
(3) 防災・減災に関わるすべての人の必読書!!
著者としては、第三部「気象防災と予報官」にいちばん力点をおきたかったのではないだろうか。

 気象情報は、ぜひとも伝えるべきこと、伝えたいことを予報官がもっていることが大前提だ。いま何を伝えるべきかを明確に意識し、それを端的に表現する。気象情報はそうあるべきだ。(同書p257より)
 そのような期待と責任を十分に担いうる予報官を育てるのは、気象情報の利用者である国民と、予報官の仕事と密接にかかわる防災関係機関や報道機関、そして予報官の職場である行政官庁としての気象庁である。  気象情報の利用者は、気象情報に関する要望などを遠慮なく発表者にぶつけるのがよい。そのことが、気象情報の発表者と利用者の意思疎通を促進し、予報官のモチベーションを高めることにつながる。(同書P262より)

 これらのコトバを聞くと、この本の副題「予報官の道」の本意も見えてくる気がするのだった。

 最初にもどり、実にみごとな「決算書」である。!! 

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