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【お薦め本】『ジャガイモの花と実』(板倉聖宣著 楠原義一画 福音館)

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▼昨年ジャガイモを育てていた畝に取り残しのイモがあったのか、りっぱに花を咲かせるまでに育っていた。
 今年の畝のジャガイモは不作だ!!
 とは言ってもそのままにしておくわけにはいかない。
 少しずつ掘り起こして新ジャガをいただいている。おいしい!!

 隣の畑から分けてもらったジャガイモの実を黒い紙の上に置いてゆっくりながめて見た。

 やっぱり ほんとそれはミニトマトだった!!

▼その「ミニトマト」をながめていると、無性にあの本を読んでみたくなった。
 あの本とは

◆『ジャガイモの花と実』(板倉聖宣著 楠原義一画 福音館 1968.07.01)

である。もう何度も読んだはずだが、はじめて読むように面白かった!!
 あまりに面白かったので、今さらであるが【お薦め本】にあげることにした。

 著者の板倉聖宣先生は、今年(2018年)の2月7日に亡くなられた。
 今年のジャガイモの花も実も見ずに…。

 板倉先生はよく知られているように、1963年「仮説実験授業」を提唱された。
 この本はそれから5年後の夏に初版が出された。
 
 ちょうど今から50年前、半世紀前である!!

▼半世紀も経っているのにとても新鮮で読み始めたらやめられない。
 この面白さはどこからくるのだろう!?
 ぐだぐだ長くなってしまいそうだ。いつものようにはじめにお薦めポイント3つをあげておく。

(1) 大人も楽しめるホンモノの子ども向け「科学書」である!!

(2) ジャガイモ発明発見物語が面白い!!

(3) 等身大科学研究の道を示唆してくれている!! 

ではひとずついこう。
(1) 大人も楽しめるホンモノの子ども向け「科学書」である!!
 私は子ども向け「科学書」を読むのが大好きだ!!
 子ども向け「科学書」を書ける人こそホンモノであるとかたく信じている。
 著者・板倉先生はこの本の「あとがき」で次のように言っていた。

『ジャガイモの花と実』ーこれは、ジャガイモについての知識の本ではありません。ジャガイモの花と実という、ふだんは全く問題にもされないものを一つの手がかかりにして、自然のしくみのおもしろさと、それを上手に利用してきた人間の知恵ー科学のすばらしさとを描き出そうとしたものです。(同書「あとがき」より)

(゜゜)(。。)(゜゜)(。。)ウンウン
さらに続けて

 一般的にいって、これまで出版された子ども向きの科学書は、内容がもりだくさんすぎます。一冊の本の中にあれもこれもとたくさんの知識を書き並べているので、目新しさばかりが目にうつって、じっくりと考えているひまがないように思われます。そこで、思いきって主題をしぼって、読者を科学の世界にひきずりこむことを考えました。この本はそのような試みの一つの成果です。(同書「あとがき」より)

この試みはみごとに成功しており、下手な解説は蛇足というものだ。

(2) ジャガイモ発明発見物語が面白い!!
 (1)とは一見相矛盾するようだが、この部分も私のように児童書で勉強する人間にとっては重要デアル。
 「目次」は次のようになっていた。
「目次」
・ジャガイモとわたし
・植物の花と実とたね
・生物の再生の力
・たねから育てたジャガイモ
・たった一個のジャガイモの実
・植物の魔術師
・野生のジャガイモ草
・ジャガイモの歴史
 
 これを見ればわかるように、アンデス山脈の高地にあった植物が、どのようにして我が家の畑までやってきたのか、花と実の関係に触れながら興味深く語られている。
 読み終えたらちょっとしたジャガイモ博士になった気分になる。
 その面白さを人に語ってみたくなることまちがいなしだ。

▼できるだけ簡潔にポイントをおさえてと思うがついついながくなってしまう。
 最後に

(3) 等身大科学研究の道を示唆してくれている!! 
 実は私が、この本でいちばん気に入っているところは、「ジャガイモとわたし」の話からはじめているところです。
 著者自身がはじめてジャガイモ作ったときのことからはじまります。
 それは、今から語るジャガイモの「科学」を等身大にとらえていくという宣言にように思えたからです。 

 この本にかけた意気込み、志はなみなみならぬものがあったようだ。
 再び「あとがき」から板倉先生のことばを借りよう。

 いわゆる子ども向きの科学書には、「自然の本」ではあても「科学の本」でないものがたくさんあります。自然科学の研究対象である自然界のおもしろそうな事物についてさまざまな知識を教えて、子どもを科学の世界に近づけようというのです。しかし、わたしはそのような考えに賛成することがでません。科学は人間がつくりあげてきたものであって、自然の事物そのものとはちがいます。科学のおもしろさは、すばらしさは、自然の個々の事物のものめずらしさ以上のものです。(同書「あとがき」より)

続けてこうも

ところが多く人が手にする図鑑風の本には、科学のもたらした知識の断片が書きつらねてあるだけのものが多いので、科学というものは冷たいものだと思われたりしてきたのです。 しかし生きた科学の世界を知らせる本は、まだ見知らない事物の存在について豊かな夢をもたせ、新しいものを見い出しつくりだしてゆくおもしろさを知らせ、そういうことを可能にした人間の知恵のすばらしさをしみじみと感じさせるものになりうるはずです。わたしはこの本で、そういうものを書きたいと思ったのですが、いかがでしょうか。 (同書「あとがき」より)

 「仮説実験授業」提唱5年後!!
 私には、これらの言葉が、一冊の子ども向けの科学書についてのみならず、「これから」の科学教育に向けて発せられた宣言に読めてくるのだった!!

半世紀たった今、確信を持って言おう!!

半世紀前の『ジャガイモの花と実』は、「科学読み物」の金字塔である!!

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コメント

 話の内容にとても心を動かされました。「ジャガイモと花の実」の本の存在を知っていたものの、この投稿でじっくり読みたいと思いました。どこが注目点なのかが具体的にわかりやすく説明されているからともいえます。また、板倉先生の科学への思い、考え方に共感することが伝わってきました。板倉先生が亡くなられたのは、本当に残念ですが、遺された優れた書物は、今の子どもたちにぜひ読んでもらいたいと思うものです。さらに、少しでも伝えていく努力をしたいところです。今度、この内容は、サークルで紹介したいと思いました。とてもいい資料となります。ありがとうございました。

投稿: 石 孝弘 | 2018/06/05 07:50

石 孝弘さん
さっそくのコメントありがとうございます。
ぜひぜひ多くの子どもたちに、そして大人たちにも読んでもらいたい本ですね。
 こんなふうに言っていただいて、【お薦め本】にあげた甲斐があると言うものです。とてもうれしいです。
ありがとうございました。<(_ _)>

投稿: 楠田 純一 | 2018/06/05 08:27

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