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【お薦め本】『雪』(中谷宇吉郎著 岩波文庫)

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「雪は天から送られた手紙である」
けだし名言である。
「雲見」を毎日の「日課」にするくらしをはじめて、ますます実感を伴ってそう思うようになった。
一昨日の「雲見」は、昨日のそして今も降り続く「雨」を教えてくれていた。
 このコトバに惹かれて、能登への「雲見」の旅では「中谷宇吉郎 雪の科学館」を訪ねたこともある。
▼中谷宇吉郎という科学者に惹かれるのは、今、寺田寅彦を読むオンライン「寅の日」を続けていることと大いに関係しているにちがいない。
 今年は、もうひとつあった。今年の立春前日(2/3)から191日間「立春の卵」を立てつづけるという、小さな実験に挑戦したこととも関係もあった。その「立春の卵」の著者こそ中谷宇吉郎なのであった。
 雪のシーズンを前に、あの名著を読み返してみることした。

◆『雪』(中谷宇吉郎著 岩波文庫 1994.10.17)

 元々は岩波新書として1938(昭和13).11.20に出されたものを、前記の「雪の科学館」開設の機会に文庫本化されたようだ。
 だから、元々は今から77年も前に書かれたものなんだ。まずなによりそれに驚いてしまう。
読みはじめるとすぐわかる。
新鮮!!なのである。
今日的!!なのである。
▼ 私は、この本をほんとうに読んだことがあるのだろうか?自分でも疑ってしまうほど新鮮で面白かった。
 話が拡散してしまわないうちにいつものようにお薦めポイント3つを先にあげておく。

(1) 科学研究とは何かを教えてくれている!!

(2) 科学研究の面白さを伝えてくれている!!

(3) 科学研究のすすめ方を等身大に語ってくれている!!

ひとつずついこう。
(1) 科学研究とは何かを教えてくれている!!
 まずこの本の出だし「序」でこうだ。

 この本は雪の結晶について私が北海道で行った研究の経過及びその結果をなるべく分りやすく書いたものである。勿論(もちろん)専門の学者の人に読んでもらうつもりは毛頭ないので、ただ自然の色々な現象について正当な理解を持ちたいと思っておられる人々に、少しでも自然現象に対する興味を喚起する機縁になれば有難いと思って書いたものである。(同書p15より)

 これを読んで、浅学な私は妙にうれしくなってしまうのだった。
そして、最後の「附記」にはこうも書いてくれていた。
 もし料理屋の立派な御馳走を喰べ馴れている人に、茶漬のような味を味わってもらえたら望外の喜びである。
(同書p163より)

さらには、続けてこう言っていた。
しかしわれわれが日常眼前に普通に見る事象の悉(ことごと)くが、究めれば必ず深く尋ねるに値するものであり、究めて初めてそのものを十分に利用することも出来、またもし災害を与えるものであればその災害を防ぐことも出来るのである。それ故に出来るだけ多くの人が、まず自分の周囲に起っている自然現象に関心を持ち、そしてそこから一歩でもその真実の姿を見るために努力をすることは無益な事ではない。すべての事柄について一般的の知識の向上は、必ず後日そこから優れた成果が出て来る土台となるものである。このことは繰返し言ってよいことであろう。(p164より)

もうこれだけでこの本の紹介は充分という気もするが…
▼続けよう。
(2) 科学研究の面白さを伝えてくれている!!
 世界ではじめて「人工雪」をつくるまでの研究のプロセスを実に面白く伝えてくれていた。
そして、読者には「科学研究のすすめ」を書いててくれていた。

しかし自分の楽しみのために、雪の降る日一箇の虫眼鏡をもってそれを自分の眼で見ることは無意味なことではない。それによって自然の工(たくみ)の微妙さを知るに止まらず、写真や見取図などではうかがえぬ神秘が観察者に雪に対する新しい興味をもたらしてくれるであろう。凡ての事象を自分自身の眼によって見ようとする願望、これがあれば必ずしも専門的の知識や素質がなくともよいのである。しかしこのように自然現象を自分の眼で見る人には、やがてその科学的説明を求める気持が出て来るであろう(同書p55より)

先を急ごう。
(3) 科学研究のすすめ方を等身大に語ってくれている!!
 雪博士は最初から「雪博士」であったわけでない。
やっぱり、まったくの無手勝流からはじめていた。その一部始終を等身大に語ってくれていた。
寒い寒い「廊下の片隅」に顕微鏡と小さな実験台をひっぱり出してきて、雪花を観察する姿を想像すると、なぜかうれしくなってしまった。
 マッチの軸の頭を折って、そのささくれで雪花をつるしあげる。便所の窓についた「霜の花」をヒントに、実験室でも作ってみる。そんなシーンを想像する度ににっこりしてしまった。
 謎解き「研究」のすすめ方について、きわめて示唆的なコトバもあった。

研究というものは、このように何度でもぐるぐる廻りをしている中に少しずつ進歩して行くもので、丁度ねじの運行のようなものなのである。(同書p155より)

実は紹介したことはもっともっとある。
 しかし、引用ばっかりのヘタな紹介は蛇足になってしまいかねない。
だから、これぐらいにしておく。
最後にもう一度だけ、やっぱりこの本は名著中の名著だ!!

なおうれしいことにこの本は、青空文庫で今すぐにも読めます
◆『雪』(中谷宇吉郎著 青空文庫より)

 肝心のあの名言のところを引用させてもらうのを忘れていた。
ぜひ、自分で確認してみてください。きっとあの名言がより納得ゆくものになると思いますよ。
今度見る雪もきっとちがって見えてくるはず…。

急に雪博士の真似をしてみたくなった。

「雲見」は天との対話である!!

降り続く雨のなか彼女は必死に生きていた。
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