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【お薦め本】『キリンの斑論争と寺田寅彦』(松下 貢編 岩波科学ライブラリー)

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▼昨日、それをじっくり見るためにお城の近くの姫路市立動物園に行ってみた。
動物園を訪れるのはずいぶん久しぶりだった。園には2頭のキリンがいた。姫りん(メス)とコウスケ(オス)である。キリン舎の前で一時間半ばかりじっとそれを見てみた。
言われてみれば確かにその斑模様は田んぼが干上がってひび割れたときの模様に似ていなくもないなと思いだした。それにしても…
▼今から80年ほど前、1933~34年にこの「キリンの斑模様」をめぐて大論争があったという。
世に言う「キリンの斑論争」である。この論争めぐっての論文とその後が紹介されているのが今回の【お薦め本】である。

◆『キリンの斑論争と寺田寅彦』(松下 貢編 岩波科学ライブラリー 2014.1.8)

 私は今、オンライン「寅の日」で、「寺田物理学」入門にはまっている。
そのなかで、自分自身にふたつの課題(宿題・疑問)を出していた。
(1) 「寺田物理学」はなぜ面白いのだろう?
(2) 「寺田物理学」の謎解きはどこまで進んでいるのだろう? 

この本には、その答えが書いてあると思った。
▼語りはじめたらとりとめなく続きそうだから、いつものようにお薦めポイント3つを先にあげておく。
(1) 読めばきっと今すぐ「動物園」「水族館」「砂丘」「八百屋」などに行ってみたくなる!!  
(2) 「寺田物理学」入門希望者の必読書!!
(3) 私の「ふしぎ!?」(等身大の「ふしぎ!?」)をずっと保留し続けている人には、その謎解きのヒントを与えてくれる!!

 この論争の発端は平田森三の『キリンの斑模様に就いて』からはじまる。キリンの斑模様は粘土薄の「ひび割れ」とよく似ている。きっとそこには同じ機功が働いてるのではという問題提起である。
今から考えてもなんとも奇想天外で大胆な発想だ。それも第一線で活躍する物理学者からの問題提起である。
生物学者から反撃からある。それに対してまたまた反撃をする。
「これはなにか印刷のまちがいなのだろうと思う。」などという言葉まで飛びだしてくる。シロウトには「論争」というより「ケンカ」に見えてくる。「ケンカ」にしても当時第一線で活躍する科学者の真剣な「大ゲンカ」である。
くわしくわからなくても面白い!!
 そこへ登場するのが森田の師匠寺田寅彦だ。これがまたまた面白い!!ケンカの仲裁に入ったと言うより、寅彦の先見性、面白さ全開である。なかでも面白かったのは「猫の斑紋に関する観察」(同書 p38)だ。
 昨年の秋訪れた「高知県立文学館」にメモ、ビデオあったあの実験だ。寅彦が自分家で飼っている猫の黒斑部を布に写しとり袋をつくり考察するという実験だ。まるで子ども夏休みの自由研究に登場するような実験を大真面目にやっているのである。この一事をとっても私は寅彦の大ファンであることをやめられない。
 この本の醍醐味はここで終わらない。ではこの「大論争」その後はどうなったんだろう?
私の疑問(2) 「寺田物理学」の謎解きはどこまで進んでいるのだろう?にばっちりと答えてくれていた。
 それをうまく解説する力量は今の私にはない。
 ただ言えることはこの「大論争」はけっして単なる過去の「歴史」ではなく現在の「科学」にツナガッテイタ!!
そしてこれからの「科学」にも…。
▼編者の松下貢は実にうまく「あとがきにかえて~寺田寅彦の伝えたかったこと」にまとめておられた。
自分で語られない分、この文を引用させてもらってと思ったが、引用させてもらいたいところがありすぎて選ぶのに苦労した。それでもひとつだけ引用させてもらう。

わからないことがあればどこまでも細かく分解し縦方向に分析するという単純な方法論に基づく従来の科学に対して、寅彦は横方向のつながりに注目してそれを科学にすることを目指したとも言えよう。こうして、寅彦は複雑系にひそむ単純性を追求する科学を、時代にはるかに先駈けて行っていたのである。(同書 p124より)
 

 最後に本書と同様に、お化粧しなおした姫路城を見学される機会があれば、ぜひすぐとなりの姫路市立動物園に入園されて(入園料 大人200円)、キリンの姫りんとコウスケの斑模様も観察されることをお薦めします。
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