【お薦め本】『寺田寅彦 わが師の追想』(中谷宇吉郎著 講談社学術文庫)
▼昨日の空は青かった!!
『藍は藍より出でて藍より青し』
藍の青をはじめて見たのは、30年も前の冬だった。
山崎の藍染め工房のMさんを訪ねたときだ。藍瓶に浸けた白い糸束を引き上げると空気媒染で見る見るうちに青に変わっていった。みごとな青だった!!
その青と藍瓶の藍をなめてMさんがおっしゃった言葉が今も脳裏に焼き付いている。
『藍は生きています。』
『薬です。いつも身につけるものを害あるもので染めたりしません』
▼『藍は藍より出でて藍より青し』は、師寺田寅彦と「雪は天から送られた手紙である」の中谷宇吉郎のことかも知れない。ある面では、中谷宇吉郎という人は寺田寅彦よりも「寺田寅彦」的であった。
今回の【お薦め本】は、そんな中谷宇吉郎が寺田寅彦を語った本である。
◆『寺田寅彦 わが師の追想』(中谷宇吉郎著 講談社学術文庫 2014.11.10)
この本は、『寺田寅彦の追想』(甲文社 1947年刊)の文庫化だそうだ。
私たち寅彦ファンにとっては、とてもアリガタイ、タイムリーな文庫化である。
▼私はここのところずっと「今、なぜ寺田寅彦なのか!?」の自問自答を繰り返していた。
現段階では、5つの言葉に集約していた。
(1) 「ねぇ君、不思議だと思いませんか?」
(2) 「天災は忘れた頃にやって来る」
(3) 「元祖サイエンスコミュニケーター」
(4) ツールとしての「寺田寅彦」!!
(5) 「寅彦」的思考は、いつでも今日的である!!
この本を読むのもどうしても、この作業と重なってしまった。
読んでいくうちに私の作業仮説を後押ししてくれているように感じたのだった。
話が拡散しないうちに、いつものようにお薦めボイントを3つにまとめておこう。
(1)「ねぇ君、不思議だと思いませんか」のバックグラウンドがわかる。
(2)「寺田寅彦」的を増幅してくれている。
(3)オンライン「寅の日」の副読本として最適である。
▼(1)「ねぇ君、不思議だと思いませんか」のバックグラウンドがわかる。から少し詳しく語ってみよう。前述のように、私はこの言葉がとっても気に入っている。「ふしぎ!?」の謎解きに誘う名言である。
師寺田寅彦が弟子たち若者によく語りかけた言葉だと言われている。それはどんな場面で、どのような背景のもとで発せられたのだろう?具体的に知りたいものだと思っていた。それが、この本に具体的に書かれていた。
「ねぇ君、不思議だと思いませんか」と当時まだ学生であった自分に話されたことがある。このような一言が、今でも生き生きと自分の頭に深い印象を残している。そして自然現象の不思議には、自分自身の眼で驚異しなければならぬという先生の訓えを肉付けていてくれるのである。(本書P60 より)
他にも、そんな具体的な場面が随所に出てくる。この言葉は今なお、いやこれからもずっと有効なのである。
2つめの(2)「寺田寅彦」的を増幅してくれている。に行く。よく知られた話だが、寺田寅彦と言えばすぐ思い出すあの言葉「天災は忘れた頃にやって来る」の言葉そのもの゛は寺田寅彦が書き残してくれた随筆にはない。それに近い意味の言葉は随所にみられるが。
この言葉、寅彦の死後、師が普段からよく言っておられたことを集約・結晶化して弟子中谷宇吉郎が発した言
葉だと言われている。(1938年に使ったのがはじめてとされている)
かく左様に、中谷宇吉郎は、寺田寅彦なき後も、より「寺田寅彦」的だったのだ。「寺田寅彦」的をより増幅し、より有効化してくれたのだ。
3つめ(3) オンライン「寅の日」の副読本と最適である。はかなり手前味噌だ。
私たちは2014年4月より、オンラインで青空文庫を利用させてもらいオンライン「寅の日」という寺田寅彦の随筆を読む読書会を実施している。オンライン「寅の日」は12日一度巡って来る。2014年12月31日で第85回目を迎える。これまでいくつもの寅彦の随筆を読んできたが、「どうしてこんなこと思いついたのだろう?」と思うようなことがよくあった。その不思議に思っていたことの答えのいくつが、この本に書かれていた。
「あの文章は、こんな背景のなかで生まれたものだったのか!!」と納得することが多くあった。
そこで、これからも続けて行くオンライン「寅の日」の副読本にいいなと思った。
寅彦が言わんとしたことをより深く理解するためにも、より楽しむためにも…。
読み終わったら、昨年訪れた「雪の科学館」にまた行ってみたくなってきた。
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