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本日(2013/04/18)、第32回オンライン「寅の日」!! #traday

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▼昨日の午後、少し曇り空であったが富栖の里をドライブしてみた。私のもっともお気に入りのドライブコースである。いつ行っても新鮮な空気が流れ季節の花が心を癒してくれる。里山のしだれ桜、八重桜がきれいだ!!
しかし、それにも増して新鮮で感動的なのは<新しい緑>だった。木々の<新しい緑>は季節は絶え間なく流れていくことを教えてくれていた。
▼次々と学びたいことが出てきて、のろま頭のキャパを超え始めていた。
こんなときこそゆっくり ゆっくり急ごう!!
本日(2013/04/18)は今年度2回目のオンライン「寅の日」である。
はじめからそのことを予定したわけではないが、キャパを超え始めた「私の文脈」にピッタリとくる題目を選んでいた。
◆第32回オンライン「寅の日」
●『量的と質的と統計的と』(青空文庫より)
▼何度も口にすると真実味を失い、説得力を欠くことになることになるがやっぱり言ってしまうのである。
・寺田寅彦はきわめて今日的である!!
 今回もあのみごとな文章運びで寅彦の世界に引き込まれていく。
「科学」の歴史を語ることによって、「科学と実験」の意味を追求する。
「エキスペリメント」の意義を十分に認めたうえで、次へ展開する。

 この歴史的事実は往々、「質的の研究が量的の研究に変わったために、そこで始めてほんとうの科学が初まった」というお題目のような命題の前提として引用される。これは、この言葉の意味の解釈次第ではまさにそのとおりであるが、しかしこういう簡単な、わずか一二行の文句で表わされた事はとかく誤解され誤伝されるものである。いったいにこの種類の誤伝と誤解の結果は往々不幸にして有害なる影響を科学自身の進展に及ぼす事がある。それはその命題がポピュラーでそうして伝統的権威の高圧をきかせうる場合において特にはなはだしいのである。

私たちの頭にいつしか染みついてしまった「量的=科学的」の図式化に警告を発しているのである。
現代のように量的に進歩した物理化学界で、昔のような質的発見はもはやあり得まいという人があるとすれば、それはあまり人間を高く買い過ぎ、自然を安く踏み過ぎる人であり、そうしてあまりに歴史的事実を無視する人であり、約言すれば科学自身の精神を無視する人でなければならない。

「質的」から「量的」への科学の歴史を踏まえた上で、やっぱりはじめにあるのは「質的」なんだよと、「質的」の復権を呼びかけているのである。
はじめに「思いつき」ありき!!
それらのものの精密なる数値的決定より先にそれらのものが「在(あ)る」ということを確立することである。もっともそのためには精密な計画と行き届いた考察なしには手を出せないことは言うまでもないことであるが、その際得る数字の最高精度は少なくも最初には必ずしも問題にならないのである。おもしろいことにはこの種の Residual effect はしばしばそれが「発見」されるよりずっと前から多くの人の二つの開いた目の前にちゃんと現在して目に触れていても、それが「在る」という質的事実を掘り出し、しっかり把握(はあく)するまでにはなかなか長い時を待たなければならないのである。これは畢竟(ひっきょう)量を見るに急なために質を見る目がくらむのであり、雑魚(ざこ)を数えて呑舟(どんしゅう)の魚を取りのがすのである。またおもしろいことには、物理学上における画期的の理論でも、ほとんど皆その出発点は質的な「思いつき」である。近代の相対性理論にしても、量子力学にしても、波動力学にしても基礎に横たわるものはほとんど哲学的、あるいは質的なる物理的考察である。これなしにはいかなる数学の利器をいかに駆使しても結局何物も得られないことは、むしろ初めからわかったことでなければならない。実際これらの理論の提出された当初の論文の形はある意味においてはほとんど質的のものである。それが量的に一部は確定され一部は修正されるのにはやはりかなりに長い月日を要するのである。

▼寅彦は「複雑系科学の父」は呼ばれているらしい。
「複雑系科学」がどんなものであるか、私はまだよく理解していない。ただ無性に興味はある。
「質的」「量的」を超えて「統計的」を導入することによって次のように語っている。
 この難儀の問題の黒幕の背後に控えているものは、われわれのこの自然に起こる自然現象を支配する未知の統計的自然方則であって、それは――もしはなはだしい空想を許さるるならば――熱力学第二方則の統計的解釈に比較さるべき種類のものではあり得ないか。マクスウェル、ボルツマン、アーレニウスらを悩ました宇宙の未来に関するなぞを解くべきかぎとしての「第三第四の方則」がそこにもしや隠れているのではないか。
 このような可能性への探究の第一歩を進めるための一つの手掛かりは、上記のごとき統計的質的現象の周到なる実験的研究と、それの結果の質的整理から量的決算への道程の中に拾い出されはしないであろうか。

そして最後にこうしめくくる。
ただ量的にあまりに抽象的な、ややもすれば知識の干物の貯蔵所となる恐れのある学界の一隅(いちぐう)に、時々は永遠に若い母なる自然の息を通わせることの必要を今さららしく強調するためにこんな蕪辞(ぶじ)を連ねたに過ぎないのである。若くてのんきで自由な頭脳を所有する学生諸君が暑苦しい研学の道程であまりに濃厚になったであろうと思われる血液を少しばかり薄めるための一杯のソーダ水として、あるいはまたアカデミックな精白米の滋味に食い飽きて一種のヴィタミン欠乏症にかかる恐れのあるときの一さじの米ぬかぐらいのつもりでこの一編の所説の中に暗示された何物かを味わってもらわれれば、筆者の望外のしあわせである

正直に言おう。私の知識、理解力では引用させてもらうのが精一杯で、書かれた文章の真意がわかっているわけではない。わかっているのは、私のような人間が読んでもひじょうに興味深いということと、「これから」の「科学」にとって重要な提言が含まれている予感がするということだけだ。
 若い現場の研究者や学生さんたちたちがこの文を読んだらどんな感想をもつのだろう。
それが知りたい。それが今、もっとも私の興味あることかも知れない。

 

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コメント

こんにちわ。

寅彦の文体、当時としては、よみやすかったのでしょうが、
いまとなっては、やや古典調で、よみにくいですね。

ただ彼のいっていることの中身は、中学生にも理解できることなので、口語訳がほしいところです。楠田さんや、寅彦ファンで知られる池内了さんなどは、文体に抵抗が低いでしょうね。
寅彦の複雑系は、げんざいでは、シミュレーションというやり方で、研究ができます。その尖兵が、神戸にある、京に代表されるスーパーコンピューターですね。溶鉱炉内の燃焼から、自動車の燃費向上、台風の進路の予想まで様々な場所でつかわれています。

寅彦の時代は、コンピューターそのものがなかったので、実験を工夫するほかありませんでした。それでも、ある程度の研究ができたのですが、それは、素手で料理をするもので、包丁や電子レンジを使った料理の自在性と、効率のよさには、かないません。

寅彦は、研究資金をひっかき集めるのが苦手で、粗末な実験装置で実験していたそうです。時流にのらず、隙間を見つける目で、テーマを開拓するしかなかったのでしょう。同じ理研にいても、長岡、二科などとは大きな違いです。

投稿: 渡部義弥 | 2013/04/18 08:24

渡部さん
コメントありがとうこざいます。
池内了氏と同レベルで語られると恐縮してしまいますが、うれしいです。池内了氏がいなければわたしがこうまで寅彦にはまることはなかったと思います。
なかみの理解度は別して文体のリズムに共感しています。こんな文章が書けたらとあこがれてしまっています。
 巨額のお金かけるとか、巨大な実験設備を要しない「等身大の科学」こそが寅彦の「科学」の神髄なのだと思っています。

投稿: 楠田 純一 | 2013/04/18 20:27

楠田さん。そうでしたか。

池内さんも、播州の人、たしか姫路なので、そういうところも通低しているのかもしれませんね。

寅彦は、漱石の弟子でしたから、当時の流行作家の影響で、当時としては、よみやすい文章になったのでしょうね。

たならつ習って、いまの流行作家さんを参考に文章を書こうかと思っております。

投稿: 渡部義弥 | 2013/04/19 08:25

寅彦が、現在の東大教授ならどうだったでしょう。

やはり、スーパーコンピューターを使ったのではないかとおもいます。ただし手作りで。http://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/0395-g/

投稿: 渡部義弥 | 2013/04/19 08:30

渡部さん
続けてのコメントありがとうございます。
渡部さんのような方の意見を聞くのがいちばん興味ありましたからとてもありがたい。
これぞオンライン「寅の日」の醍醐味ですね。
池内了さんとはまだ直接会っていないです。そのうち会えることを楽しみしています。
渡部さん文章楽しみです。ぜひぜひ書いてみてください。ぜひまとまったものをひとつ。

投稿: 楠田 純一 | 2013/04/19 21:25

渡部さん
情報ありがとうこざいます。
20万円の手作りスーパーコンピュータって面白そうですね。

投稿: 楠田 純一 | 2013/04/19 21:36

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