« サイエンスコミュニケーター宣言(221) | トップページ | サイエンスコミュニケーター宣言(222) »

【お薦め本】『地質学の自然観』(木村 学著 東京大学出版会)

Dscn2510

▼2013年1月最後の日の昨日、仕事から帰った私はいつものように定点観測地から「雲見」をしていた。
雲ひとつない空の「雲見」だった。どこから春の陽気がただよっていた。
「雲見」が終わってたあと、楽しみしていたその本をいっきょに読み終えた。
その本とは
◆『地質学の自然観』(木村 学著 東京大学出版会 2013.1.18)
である。実に面白かった。
あまりにも面白いと思ったので、今年になってはじめて【お薦め本】を書く気になった。
▼読み終えた今、「私は、なんでこの本を面白い!!」と思ったのだろうと考えてみた。
目次をあげるとこうだ。

はじめに
第一章 古典地質学はの方法
第二章 歴史科学としての地質学
第三章 プレートテクトニクス革命
第四章 地質学と哲学
第五章 現代地質学の方法と自然観
付録 これから論文を書こうとする若い読者のために
おわりに

どこが面白かったのだろう?このごろ日増しにポンコツ度を増してきているせいだろうか。
一冊の本をいっきょに読んでしまうことは少なくなってきている。途中まで読んでやめてしまうことや、一部だけ「つまみ読み」をすることが多くなっているのだった。
 ところがこの本はちがっていたひとつの章を読めばつい次の章を読みたくなってしかたなかった。
なんでだろう?頭の中を整理してみた。
 だいたい3つぐらいまとめた。(こういうときは最大限は3つだと著者も言っていた。P224)
(1) 「私の文脈」と「著者の文脈」が重なっていた。(なんと不遜な表現)
(2) 一貫して等身大の口調で語られていた。
(3) 「等身大の科学」の必然性・有効性が語られていた。
▼「はじめに」の最初の1行目は次の一文ではじまる。
「還暦を過ぎると、人生のまとめをしておきたいとの思いが強くなります」

「あれ!この人私と同い年くらいかな?」と思った。
調べてみた。どうやら一ヶ月ぐらい先輩で「同い年」のようだ。急に親近感わいてきた。
同じ時代の空気を吸ってきた人間だということで、妙に「共感」するところがあった。
「そうだよな!あの時代はそうだったよな!」と、同窓会で旧友と話している気分になった。
それは各章の随所にあった。
 それは、この本のすべての章が「等身大」の口調で語られていたこととも大いに関係すると思う。
ややもすると堅苦しいテーマのところも「会話」調にする等の工夫があって私のようなシロウトにも納得できるようになっていた。
 タイミングもよかった。
私は、今週の初めから再度、授業「大地の動きをさぐる」をはじめている。
私はこの授業のサブタイトル(「ねらい」でもある)を「大地の動きを「現在進行形」でとらえよう」としている。
もちろん「プレートテクトニクス」から入った。今は教科書もそうなっているのだ。以前はそうではなかった。
「プレートテクトニクス」について以前からずっともやもやしたものがあった。
私が理科教師をはじめたころから比べるとずいぶん教科書もかわってきた。簡単な付け足しの「読み物」的扱いが正面きって扱われるようになったわけだから、それはとてもありがたいことでありうれしいことだ。
しかし、「どうしてこのように変わってきたのか?」「研究最前線ではどうなっているんだろう?」
この疑問がずっとあった。それを知りたいと思っていた。
この本にはその疑問の答えが書いてあった。それもとってもわかりやすいかたちで…。
▼「現代は過去の鍵である」この本で何度となく登場するコトバだ。
「現在起こっている現象は過去にも起こったに違いない」とする斉一主義を象徴するコトバである。
地質学を貫く考え方のようだ。
その徹底とあわせて、新たな「科学」が必要だと著者は説く。
それが「等身大の科学」だ。それを著者は自ら研究にひきつけ、「等身大の地質学」と呼んでいる。(P203)
「巨大地質学」においても最前線で活躍する著者のコトバは説得力をもつ。

最後に印象に残った2文を引用されてもらう。
ひとつは第5章しめの文章だ。

 これまでの未来設計は、「天下国家百年の計」であったわけですが、今回の地震の最大の教訓は、それを「天下国家千年・万年の計」に変更しなければならないことを教えてくれたのです。(p208)

もうひとつは「おわりに」のなかにあった。

 今の地球科学・地質学の現状では不可能ですが、将来「日本列島変動診断士」のような人が各地に生まれ、日々の観測から土地利用、災害リスクにいたるまで、社会の相談役として大きな役割を果たす。そのような人たちがたくさん生まれる、そんな近い将来を夢見る日々でした。(p230)

最後の最後に「蛇足」になることおそれずに言いますが「おまけ」がとってもいいです。
「おまけ」とは「付録 これから論文を書こうとする若い読者のために」です。
「若い読者のために」となっていますが、私のようなポンコツでも十分に参考になりました。
「おまけ」のためだけに本体を購入しても損はしません!!

 
 

|

« サイエンスコミュニケーター宣言(221) | トップページ | サイエンスコミュニケーター宣言(222) »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 【お薦め本】『地質学の自然観』(木村 学著 東京大学出版会):

« サイエンスコミュニケーター宣言(221) | トップページ | サイエンスコミュニケーター宣言(222) »